2021年2月10日水曜日

ローカル駅からはじめる自転車散歩【阪急電鉄 京都本線 南方駅】

 ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事。今回は、大阪 梅田と京都中心部を結ぶ阪急電鉄 京都本線の南方駅からスタートします。



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梅田駅から約6分。新大阪駅に近くてホテルも多いオフィス街の駅、阪急 南方(みなみかた)駅にやってきました。京都梅田間の往き来でよく通りはするものの、御堂筋線への乗り換え以外で下車することは少ないイメージの駅です。2面2線の相対式ホームからなる地上駅で、ホーム間の移動には一度改札を出る必要があるのも、今では面白いと感じる特徴。以前は普通のみ停車する駅でしたが2007年より準急が、加えて2010年より快速も停車する駅になったそうです。

写真は淡路、京都河原町方面行きの改札前です。通過する列車で踏切は四六時中忙しく開閉を繰り返していますが、遮断機が降りた状態が長時間続くというわけではないので開かずの踏切というわけではなさそうです。駅前に広場などはなく、輪行袋からの展開は道路脇のラバーポールの外側、交通を妨げない場所で行いました。

今回の車体はClinch D10(Color:ガンメタル)です。折り畳み自転車によく見られるレバーがないため言われないと気付かない人が多いですが、Lock Jawフォールディングテクノロジーという折り畳み機構を採用した折り畳み自転車です。接合部がしっかり噛み合って固定されるので、力強く漕げる剛性の高いフレームになっています。

Clinchの読みはクリンチです。フレームの折り畳み・展開は、アーレンキー(六角レンチ)でボルトを180度回転させるだけの簡単操作。断面部の凹凸によりチューブの接合面積が十分に確保されるため強固な固定力が得られる、折り畳み機構です。

南方駅のすぐ西隣(写真手前)には千里方面と大阪市内を結ぶ新御堂筋(国道423号)やOsaka Metro御堂筋線の高架があり、地上の側道も人や車がひっきりなしに踏切を渡っています。

改札内で両ホームを連絡する通路のない南方駅は、線路を挟んでホームや駅舎があるだけのシンプルな構造です。御堂筋線との乗り換えで利用する方も多いものの、新大阪駅は700mほどと徒歩圏内です。隣接するOsaka Metro 御堂筋線の西中島南方駅の読みは「にしなかじまみなみ【が】た」と濁り、阪急の南方は「みなみ【か】た」と濁りません。

南に向かうとすぐに淀川河川敷に出ます(自転車だと1分くらい!)。対岸に梅田の高層ビルの風景が広がるこの辺り(右岸)の河川敷は淀川河川公園 西中島地区で、近隣の方が散歩していたり、遠方から家族連れで遊びに来たりと、様々な人たちの憩いの場所になっています。

この日は、厳しい寒さの続く冬真っ只中で、少し寒さの緩んだ日でした。残念ながら薄く雲が広がっていましたが、気持ちのいい空気を目一杯吸うことができました。この辺りは大阪人には有名な、綺麗な夜景も楽しめるスポットです。

淀川には多くの橋が架かり様々な列車が往き来しているので、鉄道好きの子どもを連れてくるのも良さそうです。写真は新大阪駅と大阪駅を結ぶJR京都線。3本の鉄橋で計6本の線路が淀川を渡っています。ちょうど現れた列車は、京都と鳥取方面を結ぶスーパーはくとでしょうか。


阪急千里線(左)と、天神橋筋に繋がる長柄橋(ながらばし)。川岸には釣り人や、ゴムボートで漕ぎ出す準備をしている人がいました。在宅勤務で身体を動かす機会が減っているので、自然に触れる時間を意識して増やしたいですね。

千里線を含む阪急京都線はOsaka Metro堺筋線と相互乗り入れをしていて、2019年には相互直通運転50周年を迎えました。子どもの頃、交互に駅に到着する阪急と(当時地下鉄と呼んでいた)Osaka Metroの車両を見て楽しんでいたのを思い出しました(堺筋線なのに赤いラインカラーのしゃりょ)。長柄橋には人柱の歴史がありますが、その頃の長柄橋は川筋が大きく違ったことから今の東三国・江坂間の神崎川辺りに架かっていた様です。

長柄橋のすぐ上流には淀川大堰が。よく自転車乗りの方がここでの写真をSNSに投稿していますね。

淀川大堰は、淀川の流れの一部を毛馬水門から大川に供給する役割を担っている構造物です。堰とは堤防機能をもつ水門と区別されている言葉で、淀川大堰は稼働部分だけでも計330mとなる、6門の門扉がある可動堰です。

淀川大堰を眺めながら少し進むと、川を眺められる広場に出ました。淀川にはかなり多いと言われるヒドリガモでしょうか。優雅に水面を漂っている様子を眺めていると、こちらまでのんびりした気分になりました。対岸(淀川左岸)は淀川サイクリングロードが整備され、自転車乗りにはメジャーなコースとなっています。写真右手が先ほどの淀川大堰、左手には毛馬閘(こう)門を含む毛馬水門が見えます。

大川はかつての淀川の本流で、現在の淀川(新淀川)は淀川放水路として1907年に開削されたものです。毛馬水門は、淀川から分岐して都心部を流れる大川の水位を調整する設備です。大川は下流にいくに従い堂島川、安治川と呼ばれ、中之島を経て大阪港に通じています。淀川は瀬戸内海に流れる河川の中で流域面積が最も広い川ですが、淀川大堰より下流部分が人工の放水路であることは、大阪人にもあまり知られていないように思います。

今回のコースとは直接は関係ありませんが、こちらは昨年暮れに撮っていた、珍しく水位の高い土佐堀川(中之島)の様子。天候や干満、その他様々な目的により日々計画的に流量を管理されている皆さんのおかげで、私たちは安心して暮らすことができているんですね。

川沿いを走ると、色々な設備があることに改めて気付きます。こちらは大阪市内 中・北・西北部に給水する柴島浄水場の取水塔です。年代を感じさせる大正時代の煉瓦造りの外観に、最初は「エ?ここが?!」と驚きましたが…いつもお世話になっています。


土手を上ると、こちらにものんびりとした景色が広がっていました。パブリックショートコースで初心者も楽しめるゴルフクラブだそうです。


河川敷を後にし、阪急 淡路駅の方へ向かいました。以前から連続立体交差工事の様子をチラッと見かけ、じっくり見たいと狙っていました。間近で見ると、その迫力に圧倒されました。


淡路駅は京都本線と千里線が平面でクロスしている駅で、梅田から京都方面、北千里方面、京都から梅田方面、天神橋筋六丁目方面へ向かう列車が乗り入れています。工事は、総延長7.1kmを連続立体交差化するもので、狭隘な都市部で約800tの重さの鋼製トラス橋を掛ける作業は、施工会社の記事を見るだけでドキドキです。新しくなる淡路駅ではホームが3Fと4Fの二層構造になるそうです。

新大阪駅の方へ向かい、渋い外観がいい雰囲気のたかうち珈琲店に立ち寄りました。好きな割にはあまり知らないので、希少種も揃うメニューから「土のような香り」「強めの苦味」と書かれたマンデリンをオーダー。強めの苦味がちょうど自分好みで幸せな気持ちになれました。フラッと入った店でしたが、昔ながらの珈琲専門店らしい心地よさがありました。

コーヒーの産地は大きく分けると、中南米、アジア、アフリカの3つの地域に分類され、マンデリンは、インドネシアのスマトラ島の一部地域で栽培される、アラビカ種の希少なコーヒー豆だそうです。あまりの美味しさだったので、また機会を作って訪問したいと思います。

たかうち珈琲店を出て新大阪駅の方に進むとJR在来線を跨ぐ歩道橋があったので、上がってみました。長年大阪に住んでいますが、この歩道橋に上がるのは初めてです。在来線のホームが並ぶ様子を正面から望めます。新大阪駅では、4階の新幹線ホームが20番から27番線なのに対し、1階の在来線ホームは1番から10番線。始発駅でもあるので、長時間停車している列車も見えます。昭和の時代から変わらない風景なんでしょうね。

男の子のいる家庭の父親は、自分も子どもに戻って一緒に遊べるのが楽しいですよね。お前もその良さが分かる歳になったか…なんて心の中で呟いたり。様々なタイプの列車が行き交う大きな駅で、親子の微笑ましい姿に出会いました。

企業のオフィスやビジネスホテルの多いエリアを抜け、新御堂筋より西側に移動しました。背景は鉄道ファンであればすぐに分かりそうな場所ですが、正式名を網干総合車両所 宮原支所というJR西日本の車両基地です。近隣の子どもが遊ぶ公園にも面していて、この日も親子連れが列車を見にきていました。

今回走った距離はさほど長くないですが、Clinch D10は剛性の高いフレームで本当によく走る車体でした。

最後に、この車両基地を見渡すことのできるスポットにやってきました。右手に、87系寝台気動車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」の姿も見えました。いつかはこんなクルーズトレインで輪行旅をしてみたいものですね。

写真は、新御堂筋の側道の歩道からです。自転車は駐輪場に停めてくる必要がありますが、見応えのある景色が広がる、お勧めの眺望ポイントです。

今回巡ったポイントと走行ルートです。約11kmのショートトリップでした。今回は立ち寄りませんでしたが南方駅周辺はラーメン激戦区でもあるので、お好きな方は事前に調べておくのも良いかもしれません。


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今年からスタートした「ローカル駅からはじめる自転車散歩」の第2回は如何でしたか?日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。今回はClinch D10という車体が登場しました。輪行に向いた折り畳み自転車を選ぶ際は「折りたたみ方法がシンプルで簡単なタイプ」「折りたたみ時によりコンパクトになるタイプ」「折りたたみ時に持ち運びやすい形になるタイプ」「車体が軽いタイプ」といった点を重視すればベストです。今回のClinch D10はどちらかと言えば軽量コンパクト性よりも走行性能を重視したモデルなので、1日でしまなみ海道を走破するような走り方に向いていそうです。DAHONでは様々な折り畳み自転車(フォールディングバイク)をラインナップしていますが、走行機能と折りたたみ機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあった製品を選んでください。

DAHONでは今後も引き続き、様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載いたします。更新時にはFacebookやTwitterでお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。また「ローカル駅からはじめる自転車散歩」専用のInstagramアカウントもスタートしましたので、こちらもぜひチェックをお願いします。


*使用車体
 DAHON / Clinch D10(Color:ガンメタル)2021年モデル

*この記事で紹介している情報は、2021年2月時点の取材に基づいています。
*歩行者のいるところや細い路地などは押し歩きや道を迂回するなど、マナー優先でサイクリングを楽しみましょう。