ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事 。今回は東急電鉄
東急多摩川線
矢口渡駅を起点に、自転車散歩をしながらテナガエビ釣りもするという、趣味二刀流的なポタリングレポートをお届けします。
* * *
自転車の素晴らしいところは、乗って移動することそれ自体が非常に楽しいに留まらず、釣りや有名建築巡りなど、他の趣味の相棒としてもとても便利に使えることだと思います。野球のバット、テニスのラケット、Nintendo
Switchのプロコン、オオクワガタを大きく育てるための菌糸ビンなど、趣味の道具をあれこれ思い起こしてみても自転車のような万能アイテムはなかなか思いつきません。そこで今回は、多摩川下流域でのテナガエビ釣りを題材に、道具としての自転車の魅力を探る輪行および釣行レポートをお届けしたいと思います。
というわけでやってきたのは東急多摩川線
矢口渡(やぐちのわたし)駅。この駅を出発点に選んだ理由は、多摩川のテナガエビポイントに近いのがひとつ。もうひとつは釣りマンガの金字塔「釣りキチ三平」ゆかりの駅だからです。釣りキチ三平の作者、故矢口高雄氏の本名は高橋高雄というのですが、デビュー当時この矢口渡駅近くのアパートに住んでいたことから矢口高雄というペンネームになったそうです。釣行(&輪行)レポートの出発点として、ピッタリな駅だと思いませんか。
近くを流れる多摩川に、昭和24年まであった渡舟場「矢口の渡し」が駅名の由来です。よく似た地名に細川たかしさんの演歌で有名な「矢切の渡し」がありますが、あちらは江戸川を渡る渡し船で、葛飾区柴又と千葉県松戸市矢切をつなぐ渡しです。
残念ながら矢口渡駅周辺に釣りキチ三平に関する案内版や銅像などは一切ありません。下の写真は事前に古本屋さんで買ってきた文庫版の釣りキチ三平。主人公三平三平(みひらさんぺい)のように、たくさん釣れることを願って矢口渡駅を出発します。
三平の2歳年上の幼馴染ゆりっぺ。キャスティング大会編で三平に試合では勝つものの勝負には負けてしまう離島の少年鮫島仁。魅力的な登場人物の多いマンガでした。
矢口渡駅から南に走って約5分、多摩川河川敷に到着。下の写真の真ん中ちょい左あたりに小さな物置がありますが、この物置の裏に矢口の渡し跡の案内板があります。自転車を停めている舗装路は多摩川サイクリングロード(多摩サイ)。日曜日なので、たくさんのサイクリストたちが通り過ぎていきます。
今回のパートナーは20インチの極太タイヤを装着した「DAHON Horize
Disc」。舗装されていない河川敷を走ることになりそうな今回のポタリングも、コイツが相棒なら安心です!
矢口の渡し跡の案内板。江戸時代、多摩川には一番上流の沢井の渡し(青梅市)からもっとも河口に近い羽田の渡し(東京都大田区)まで全部で39の渡し船があったそうです。多摩川の渡しを巡る自転車散歩というのも面白いかもしれません。
矢口の渡しがあった川べりから対岸の川崎方面を撮影。写真の橋は多摩川大橋。昭和24年にこの橋ができて、矢口の渡しは廃止となりました。
多摩川大橋の川崎側のテトラ帯は多摩川テナガエビポイントのひとつです。橋の上から覗くとテナガエビを釣っている人がチラホラ。早速橋の下に降りて、釣果を拝見したいと思います。
河川敷に広がるのは川崎リバーサイドパークというゴルフ場です。
橋の下に降りると10人ほどの釣り人が思い思いのスタイルで釣りをしていました。
川べりに置いてあったバケツを覗くとテナガエビが15匹ほど。多摩川に限っての話かもしれませんが、テナガエビは釣れる日は釣れるけど、釣れない日はまるで釣れないという、釣りテクより潮目と天候に左右される釣り。今日はテナガエビ日和かもしれません。
テナガエビは北海道を除く日本全国の淡水・汽水域に生息している身近な生き物です。ハゼと同じように夏の小物釣りの対象として、昔から多くの釣り人に愛されています。
このオジサンが上の写真のバケツの持ち主です。なかなかの達人で、3本の置き竿で次から次にテナガエビを釣り上げていました。竿はテナガエビ釣り用に自作した極軟調竿で、エサは赤虫を使っていました。今日の目標は50匹だそうです。
釣り上げたテナガエビは素揚げにして食べるそうですが、オジサンは甲殻類アレルギーで、家族で自分だけ食べられないそうです(涙)
今日は釣れそうだ!という期待を胸に、次のテナガエビポイント「六郷テトラ帯」に向かいます。
多摩川沿いの道は途中から砂利道に。でも極太タイヤのHorize
DISCだからまったく問題なし!
砂利道の次は、雑草だらけの野道に突入!それでも極太タイヤのHorize
Discだからまったく問題なし!(くどいですね、スミマセン)
未舗装の多摩川べりを走ること10分(距離にして3キロ弱)。多摩川でもっとも有名なテナガエビスポット「六郷テトラ帯」に到着!日曜日ということもあり、たくさんのテナガエビアングラーたちで賑わっています。
手前の橋がJR京浜東北線多摩川橋。ひとつ向こう側の橋がJR東海道本線六郷川橋梁。さらにもうひとつ向こう側にあるのが京浜急行多摩川鉄橋です。3つともシンプルな形状のトラス橋です。
京浜東北線と東海道本線の間から撮影。なかなか壮観です。
頭上を断続的に通りすぎる列車の轟音をものともせず、テナガエビ釣りに興じる釣り人たち。
京急線の下流側に移動。ここでもたくさんの釣り人がテナガエビを釣っています。
あちこち移動しながらテナガエビの釣れ具合を観察していましたが、釣れ加減はそこそこという感じ。今日のところは最初の多摩川大橋の方が釣れていたように思います。というわけで、もうひとつ下流側のテナガエビポイント「味の素前」に移動したいと思います。釣れる場所を探し求めて気軽に移動できるのが自転車釣行の良いところです。
六郷テトラ帯から味の素前に向かう途中には経済産業省が認定した近代化産業遺産であり、国登録有形文化財でもある「川崎河港水門」があります。川崎市を縦断する大運河計画によって昭和3年に完成したものの、その後計画は中止になり水門だけが残されたというちょっともったいない文化遺産です。
多摩川の川べりから撮影した川崎河港水門。
陸地側から撮影した川崎河港水門。頭頂部にブロッコリーのような装飾が施されていますが、これは当時の川崎市の名産であった葡萄、桃、梨をイメージした装飾だそうです。
川崎河港水門から走ること数分。本日3か所目のテナガエビポイント「味の素前」に到着!釣り人が少なく、落ち着いて釣りができそうな雰囲気です。ここでテナガエビ釣りに挑戦してみたいと思います。
味の素前の名称の由来は、すぐ裏手に広大な味の素川崎工場が広がっているからです。
自宅からリュックサックに入れて持ってきた釣り竿と仕掛け。釣竿は1500円ほどで買った長さ120センチののべ竿。たたむと35センチぐらいなので携帯性もバツグン。仕掛けは釣具屋さんで買った220円のテナガエビ用のセットです。
テトラポッドの隙間を狙うテナガエビ釣りには90〜150センチぐらいの短竿がオススメです。
エサはミミズ。釣る場所を決めたら近くの釣り具屋さん(川崎駅前の上州屋さん)までエサを買いにひとっ走りしようと考えていたのですが、川沿いの道をちょっと探してみたら、地面に這い出してきて干からびつつあったミミズがいたので、それを捕まえて利用することにしました(苦手な方も多いと思いますので白黒写真にしています)。
テナガエビ釣りのエサは、赤虫とミミズが定番です。赤虫の方が釣れるみたいですが、エサ持ちが悪いので初心者はミミズの方が楽ちんです。ミミズはハサミで1センチぐらいに切って使います。
早速、テトラポッドの隙間に仕掛けを投入。丹念に隙間を探っていきます。
足場の悪いテトラポッドの上、カメラを落としたら100パーセント水没という状況で釣りながら写真を撮る。ひとり取材は大変です。
釣り開始からほんの5分で、幸先よく一匹目をゲット!そこそこのサイズのオスのテナガエビです。
本当は釣り上げてハリにかかった状態のテナガエビの写真を撮りたかったのですが、バラシてしまっては元も子もないし、足場も悪いし…。いまいち躍動感のない写真で申し訳ありません。
その後すぐに2匹目を釣り上げて、この調子だと10匹ぐらいは楽勝かも…と思ったところでハプニング発生!!!細切れにしたエサのミミズをペットボトルのフタに入れて護岸壁の上に置いていたのですが、カニ取りの少年たちがやってきて、そのフタを蹴っ飛ばしてしまったのです(涙)。
貴重なエサを失い、もう一度干からびたミミズを探して釣りを続行するかどうか迷いましたが、釣り上げた2匹のテナガエビを生かしたまま持ち帰り、素揚げにして食べるところまでレポートしたい!というなぞの記者魂が湧き上がってきて、結果、釣り開始からわずか15分ほどであっけなく納竿することにしました。(う〜ん、せっかくテナガエビの巣窟的なポイントを見つけたのに…残念…無念…)
とにもかくにも、こちらが釣り上げた2匹のテナガエビです。麦茶ポットを改造した自作のクーラーボックス(保温機能はありませんが…)の中に入れています。
酸欠と水温の上昇にきわめて弱いテナガエビを生きたまま持ち帰るには、クーラーボックスと保冷剤と電池式携帯エアーポンプが必需品です。今回は輪行による釣行で、クーラーボックスを持ち運ぶのは無理があります。そこで、クーラーボックス代わりの改造麦茶ポットを持ってきたのです。こいつを利用してなんとかテナガエビを生きたまま持ち帰りたいと思います。
この改造麦茶ポットですが、1)スーパーで買った麦茶ポット(容量3リットル/約300円)のフタにキリとプラスドライバーで穴をあけ、2)その穴に電池式携帯エアーポンプのチューブを通し、3)水漏れを塞ぐためフタの内側にマスキングテープを巻き付けカッチリ閉まるようにする、という手順で作っています。ポットの中の赤い網は、ミカン用のナイロンの網です。テナガエビは何かにつかまって体を固定していないとストレスを感じて弱ってしまうので、足場代わりに入れています(洗濯ネットでも代用できます)。
それと大切なことを書き忘れていました。生きたまま持ち帰るのは、調理の前に泥抜きをする必要があるからです。24時間ほど絶食させて胃腸の中を空っぽにしないと都会のテナガエビは泥臭くて食べられないのです。
麦茶ポットをリュックサックに収納しました。このままではあっという間に水温が上がるので、急いで氷を手に入れる必要があります。
背中のテナガエビに気を使いながら慎重に自転車を漕いで約5分、イトーヨーカドー川崎港町店に到着。大急ぎでロックアイスと保冷バッグを購入します。
汗まみれの身体に、館内の冷房が気持ちよかったです。
300円で買った保冷バッグ。中にロックアイスと改造麦茶ポットが入っています。これでとりあえず一安心です。
本日の持ち物はこんな具合です。保冷バッグはリュックサックの中に入っています。それ以外に釣り竿、仕掛け、輪行バッグ、予備のマスクです。輪行バッグ等は水漏れしても大丈夫なようにジップロックの中に入れています。
テナガエビの延命措置が完了したので、あと少し自転車散歩を続けてみたいと思います。
京急大師線鈴木町駅。以前は「味の素前駅」という名称でした。味の素川崎工場の正門前にあり、敷地の一部は工場の中にあります。踏切の向こう側に広がる広大な工場のそのまた向こう側に多摩川があり、先ほどまでそこでテナガエビを釣っていました。
鈴木町駅から点々と続くなぞの足跡。足跡を辿っていくと…
味の素うま味体験館に到着。さきほどの足跡は味の素のコーポレートキャラクター「アジパンダ」の足跡でした。
味の素うま味体験館では予約制で工場見学を受け付けています。味の素コース、本だしコース、クノールスープコースの3つの見学コースが用意されています。
そしてようやく今回の輪行&釣行のゴール地点である京急大師線の港町(みなとちょう)駅に到着。先ほどの鈴木町駅から港町駅までは約750メートルの距離。自転車ならあっという間です。
港町駅は、以前は「コロムビア前駅」という名称でした。すぐ近くにあった日本コロムビア川崎工場がその由来です。日本コロムビア川崎工場は2007年に閉鎖されましたが、駅前には日本コロムビアに所属されていた美空ひばりさんの写真と彼女のヒット曲「港町十三番地」の歌碑が設置されています。
美空ひばりさんの「港町十三番地」、森進一さんの「港町ブルース」、八代亜紀さんの「おんな港町」など、港町演歌には名曲が多いと思いませんか?
発売当時のレコードジャケット。写真左上の白いボタンを押すと少しだけ曲が流れます。
[おまけのテナガエビ調理レポート]
自転車散歩の記事は港町駅でおしまいですが、テナガエビの釣行レポートは調理レポートに名前を変え、もう少し続きます。
帰宅後バケツに開けたテナガエビ。残念ながら1匹は死んでしまいました。酸素と水温に気を使っても、ハリを外すときに傷つけてしまうのか、環境が急に変わるストレスのせいなのか、1/3程度は死んでしまいます。
死んでしまったテナガエビは庭の片隅に埋葬させていただきました。合掌。
生き残ったテナガエビは、水を2〜3回交換しながら、24時間かけて泥抜きをします(エアーポンプは付けたまま、保冷剤も必須です。交換する水は水道水でOK、カルキ抜きは不要です)。下の写真は24時間後、泥抜き完了のテナガエビです。
ピンピン生きています。
泥抜きが終わったら、料理酒の中に浸して(酒締め)、粗塩をもみ込んで体の表面の汚れを落とし、きれいに水洗いした後、素揚げにします。下の写真が素揚げにしたテナガエビ。ビールにぴったりの素朴な味です。
1匹だと物足りないですね。
酒締め中のテナガエビの動画(約20秒)を載せておきます。在りし日の元気なテナガエビの雄姿をぜひご覧ください。料理酒に浸しているので、途中からヘロヘロになっていきます。
VIDEO
[おまけのテナガエビ釣り情報]
今回は多摩川でのテナガエビ釣りを紹介しましたが、テナガエビは日本全国の汽水域(淡水と海水が混じるところ)で簡単に釣ることができます。首都圏だと多摩川のほか、江戸川、荒川、相模川、利根川など。愛知だと木曽川、矢作川。大阪だと淀川が有名ですが、そういった大きな川以外にも、有名な釣り場はたくさんあります。「テナガエビ 地名」で検索すれば、地元の釣り場が見つかるので、興味のある方はぜひ検索してみてください。
テナガエビの釣りシーズンは、5月から8月までです。6・7月がハイシーズンで、8月になると大型の個体が増えますが数が減ります。夏の釣りなので、熱中症にはくれぐれもご注意ください。あと、テトラポッドの上はすべりやすく、こけると思わぬ大怪我につながることがあります。足元にも細心の注意を払うようお願いします。
今回巡ったポイントと走行ルートです。約9kmの自転車散歩&釣行でした。
* * *
今回の「ローカル駅からはじめる自転車散歩」は如何でしたか?日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。さらにスタートとゴール地点は同じ場所でなくてもよいので、走行経路は自由に組み立てることができます。今回利用したDAHON Horize Discは砂利道も野道も畦道も気にせず走ることができるヘビーデューティーな折り畳み自転車で、自転車釣行のパートナーにはぴったりです。皆さんもDAHONの折り畳み自転車(フォールディングバイク)を持参して、自転車散歩の愉しみはいかがでしょうか。DAHONでは様々な折り畳み自転車をラインナップしていますので、走行機能と折り畳み機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあったモデルをお選びください。
DAHONでは様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載しています。 更新時にはFacebook やTwitter でお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。また「ローカル駅からはじめる自転車散歩」のInstagram もぜひチェックしてみてください。
*使用車体 DAHON / Horize Disc(Color:カーキ)2022年モデル
*この記事で紹介している情報は、2022年6月時点の取材に基づいています。 *歩行者のいるところや細い路地などは押し歩きや迂回するなど、マナー優先でサイクリングを楽しみましょう。