2021年1月9日土曜日

ローカル駅からはじめる自転車散歩【Osaka Metro 中央線 大阪港駅】

 ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事。今回は、奈良県からの近鉄けいはんな線と相互直通運転され、東大阪市の長田駅から大阪南港のコスモスクエア駅までを結ぶOsaka Metro中央線の、大阪港駅からスタートします。


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大阪のビジネス街の中心地 本町駅から中央線で5つ目の駅、大阪港駅にやってきました。本町駅からだと10分ほどで到着します。島式1面2線ホームを持つ高架駅で、このホームは3階に、改札・コンコースは2階に東西1箇所ずつあります。


これより先は、大阪港咲洲トンネルという海底トンネルで南港と結ばれています。下の写真は、ホームのある3階から一気に地中まで降りていく部分です。

中央線は地下から高架になり海底トンネルと、変化に富んだ車窓からの風景も楽しみの一つです。

大阪港と聞いて分かる人は大阪人でも意外と少ないかもしれませんが、開館当時から巨大な水槽やジンベイザメで話題となった海遊館のある天保山といえばみんな分かりますね。この辺りは江戸時代末期から大正時代にかけて埋め立てられた歴史のある土地で、江戸時代 は天下の台所、大坂の玄関口として、大正から昭和にかけては日本屈指の近代港を擁する町として賑わいました。港湾施設として開発されたことから付近一帯は「築港」と呼ばれるようになり、海遊館などのある海沿いを除く中心部の大部分は、現在も大阪市港区築港として地名が残っています。


大阪の中心部からはミニベロでも自走できる距離ですが、輪行袋と呼ばれるカバンに収納して電車で移動してきました。工具無しで誰でもサッと折りたためる折り畳み自転車(フォールディングバイク)なら、気軽に輪行できるので便利です。駅にはもちろんエレベーターもあるので、自転車を担いでいても大丈夫です。

公共交通機関を利用して自転車を運ぶことを輪行(りんこう)といいます。サイクリングや旅行の行程の一部を自走せずに鉄道、船、飛行機、バスなどを利用するもので、遠くへ移動したり、時間を短縮することができます。

今回の車体は、Mu SLX(ドライレッド)。20インチサイズ最軽量の8.6kgを誇るフラッグシップモデル。持ち運んで軽いのは当然、走行面でもその恩恵を受けることのできる理想のライトウェイトバイク。輪行にも最適です。

「Osaka Metro」という表記は「大阪市高速電気軌道」の愛称で、正式ではありませんが「大阪メトロ」という表記もよく使われています。この大阪港駅のある場所は、日本初の公営の路面電車路線だった大阪市電が走っていた頃に三条通四丁目電停があった場所です。画像検索などで見ないとイメージが湧きませんが、確かに歴史を感じる建物も残されています。

まずは天保山公園へ行ってみました。天保山(てんぽうざん)といえば、日本一低い山としてご存知の大阪人も多いと思います。でも今は2番目に低い山になっています。情報のアップデートをお願いします。すぐそばの上空に阪神高速湾岸線の天保山大橋がかかるこちらが、天保山公園です。公園内には小高いエリアがありますが、二等三角点のある正式な山頂は海岸沿いの低めのところにあります。


天保山は1831年の安治川の浚渫工事(天保の大川浚)で出た土砂を積み上げられてできた築山で、灯台(高灯籠)も設けられ安治川入港の目印になっていました。長年「日本一低い山」とされていましたが、2011年の東日本大震災で仙台の日和山の標高が変わったことから、正式には日本で2番目に低い山となりました。

公園はのんびりとした時間が流れています。暖かい季節なら昼寝でもしたい雰囲気です。海遊館前、天保山ハーバービレッジの観覧車(天保山大観覧車)も見えます。

天保山公園は、淡い色のソメイヨシノと濃いピンクが特徴のヨウコウザクラが植えられており、花の季節になると濃淡の桜のコントラストを楽しむことができる、隠れた花見の名所だそう。

天保山公園のすぐ横からは、USJのある対岸とを結ぶ渡船(天保山渡)が運行されています。USJで働くスタッフの乗船も目立ちますが、無料なのでアトラクション気分で利用してみると楽しいですよ。USJは正面の大きなホテルの裏です。

大阪は古くから「水の都」として知られていますが、縦横に多くの運河や水路が走っていたことから市による公営渡船が多数運航されてきた歴史があり、現在でも8航路が大阪市により運航されています。自転車で渡船巡りをするコースも人気ですよ。

写真は、渡船場の待合室の壁です。ここの渡船(天保山渡)は、朝夕以外は1時間に2本の運行のようです。出発時間に合わせて利用者が一斉に(と言ってもこの時は10人程度でしたが)集まってきました。地元の方は流石に慣れているんですね。


くねくねと町の中を走りながら、西側の海辺の方へ向かいました。振り返ると観覧車も風景に溶け込んでいます。特別変わったところはないので思い込みかもしれませんが、どこか港町っぽい風情も感じられました。このように思い付きで自由に散策する自転車散歩は「ポタリング」と呼ばれています。輪行には簡単にコンパクトになり重さも軽めの折り畳み自転車が便利ですが、街なかをあちこち散策するのにもホイール(タイヤ)の小さな自転車=小径車が便利です。

天保山大観覧車は1997年開業で、一時は世界最大の観覧車でした。そういえば天保山ハーバービレッジには90年代、ベイサイドジェニーというディスコもありました。(←歳のバレそうな知識)

中央線沿いに進むと海岸の手前にレトロな建築が見えました。よく見ると建物は2棟で、写真手前が1935年竣工の天満屋ビル、奥が1933年竣工の(商船三井)築港ビルです。2棟とも3階建てですが、のちに周辺道路が嵩上げされたことから当時の1階部分が半分地下になり、現在は2階が玄関になっています。

天満屋ビルには現在、ハヤシライスが看板メニューのカフェや、ハンドメイドジュエリー工房などが、築港ビルにも飲食店などが入居しているので、実際にビル内部の雰囲気も見学できます。築港ビルは、大阪の海運を担っていた大阪商船(現在の商船三井)が建て、船員の待合所として使われていたそう。大阪の代表的近代建築、中之島のダイビルも大阪商船によるものです。

海岸に出ると天保山らしい景色が広がりました。左手のカラフルな建物が「海遊館」、右手前は「大阪文化館・天保山」。大阪文化館は2013年に改称される前の「サントリーミュージアム」という名称の方が馴染みのある方も多いでしょうね。


その手前に浮かぶのは、大阪水上警察署の警備艇です。2019年6月に大阪で開催されたG20の期間中は、他府県からの応援の警備艇もここに浮かんでいました。調べてみると正式には、大阪府警察が管轄する大阪水上警察署の他には神奈川県の横浜水上署、兵庫県の神戸水上署と、日本では水上警察署は3つしかない様です。


水上警察署の真前に立派な防潮扉がありました。ちょうど坂で車体が動くので、後輪の下にレンズキャップを置きました。


水上警察署の向かいは中央突堤北岸壁。警察署前の岸壁にはベンチが並び、サイクリング途中の休憩におすすめのスポットです。


大阪港中央突堤の先端、大阪港ダイヤモンドポイントからは大阪湾の景色を楽しめました。調べてみると、大阪港で夕陽がいちばん美しい場所とされている様なので、時間が許せば夕方にまた立ち寄ることにします。

対岸は南港。高層のビルはコスモタワー、大阪府咲洲庁舎です。ちょうどこのダイヤモンドポイントの下から対岸まで、海底トンネルで中央線が結ばれています。中央線は、大阪市内は地下を走り、阿波座駅から大阪港駅までは地上区間、そしてまた大阪港咲洲トンネルで海の下をと、変化に富んだ車窓が楽しめます。

中央突堤から築港中心部へ戻る途中、阪神高速の真っ赤なトラス橋「港大橋」が見えました。上下2層のダブルデッキで、橋梁マニアではありませんが、見応えがあります。

港大橋の全長は980mで、中央径間510mは世界第3位、日本では第1位の長さを誇るトラス橋です。また橋下は4万トン級の大型コンテナ船が航行できるよう、海面から桁下まで50 m以上が確保されています。建造物といえば、東京スカイツリーや、関西なら日本で最も高いビルとして知られるあべのハルカスなど、塔や高層ビルが人気ですが、橋梁に注目してみるのもいいですね。<そういえば最近、サイクリストの間ではダム巡りも人気ですが…>

中央線より南側へやってきました。海遊館を中心に商業施設が広がる北側のエリアに比べ、倉庫街と住宅地からなる一見地味なエリアですが、歴史的建造物の雰囲気を生かしたクラシックカーミュージアム、レストランなどが入るこちらの築港赤レンガ倉庫など、見どころのあるスポットが点在しています。


この築港赤レンガ倉庫の存在は100年近い歴史を持つ近代化遺産として知ってはいましたが、1928年から1986年まで大阪臨港線という貨物線の大阪港駅だったということを今回知りました。下の写真は、1975年に撮影された国土地理院による大阪臨港線 大阪港駅周辺の航空写真です。貨物線の線路は写真右上で川を越えて倉庫街に入り、海岸沿いに左上へ抜けていきます。

*当記事の最後に掲載しているマップに、大阪臨港線の走っていた場所をプロットしています。

出典:国土地理院ウェブサイト(整理番号:CKK748、コース番号:C18、写真番号:6、撮影年月日:1975/03/04)

歴史の刻まれた建物は、映える車体写真を撮るのにも好都合。自転車に乗るときは荷物は軽くしたいところですが、被写界深度を浅くして背景をぼかすような写真はコンデジでは難しいので、悩むところですね。今回は2枚だけそういう撮り方をしています(後半に掲載しています)。


倉庫街の敷地の中にある年季の入った建物を、(弊社が敷地内の倉庫を借りている関係で)施設の許可を得て撮影させていただきました。こちらも大阪臨港線の施設の一部だったのでしょうね。当時の航空写真でみるとちょうど同じ位置に同じ規模の建物が確認できます。


当時の線路の一部がこの近くに残っていることを事前に知り、見に行きました。護輪軌条(脱線防止ガード)を備えたレールガ生々しく、当時の様子を物語りますね。



築港赤レンガ倉庫の裏手にある親水護岸からの眺め。大阪臨港線は実際に自分の目で見たことがないのでずいぶん昔のことのように思いますが、正面の立派な港大橋が開通した後も10年ほどは赤レンガ倉庫が貨物駅として利用されていたのですね。


中央線の北側エリアに戻り、珈琲を飲みに「喫茶 ロマン」へ入りました。知らない街でふらっと喫茶店に入るのが好きなのですが、今回は大阪臨港線の情報がありそうなことを事前に調べていたものです。とはいえ、珈琲で一息つくのはいいものです。(小心者なので、スマホでパチリ)


こちらは許可を得てから撮らせていただきました。店内の壁に10枚弱、昔の天保山界隈の写真が飾られています。臨港線が市電と平面交差しているこの写真は、大阪市内から天保山方面に向いた、天保山運河を渡る千舟橋の手前あたりだそうです。確かにマップで見ても、現在のみなと通と臨港線が交わっています。

喫茶 ロマンは温かく人情味のあるご夫婦でされていました。マスターに伺ったところ、この写真の頃は喫茶店ではなく八百屋をされていたそう。臨港線についても熱心に教えてくださったので、当時のことに詳しい方が行けば話が弾むのではないかと思います。

美味しい珈琲でリフレッシュできたので、少しだけ足を延ばしてみます。自転車だと思いつくままに行ったり来たりできるので、天保山界隈の狭い範囲を散策するだけでも便利ですが、よく走る車体にせっかく乗ってきたので、大阪臨港線の廃線跡を少し辿ってみます。

なみはや大橋に向かう途中の、難波津橋。そのすぐ横に、臨港線の橋台が残されています。臨港線の橋台はここ以外にも複数箇所でそのまま残っているようです。


第1突堤前交差点から見上げた港大橋。その圧倒される存在感はGoogleマップのストリートビューにリンクしておきます。


ちょうどその辺りから見た「なみはや大橋」。中望遠レンズで「ベタ踏み坂」風を狙ってみました。

テレビCMに登場して有名になった島根県松江市と鳥取県境港市を結ぶ「江島大橋」同様、水面上高さは45mですが、「なみはや大橋」は上部付近でカーブしているので「ベタ踏み坂」的な見え方では「江島大橋」の方が上ですね。

交差点を左折して北上し、天保山運河の上に出ました。時々船が行き交い、正面奥の高架橋には中央線の線路が。左手奥には大観覧車も望め、天保山らしい風景のひとつです。


八幡屋商店街の手前を曲がり、三十間堀川へ向かいます。写真は小さな入口で商店街の正面入口は中央線に接しています。この辺りはかつて港湾施設とともに栄えた街で、かなりの賑わいを見せたそうです。


三十間堀川に架かる港水道橋という人道橋が面白かったので、撮ってみました。昼間だったからか人通りもほとんど全くないので、落ち着いてファインダーを覗き込みます。後ろの船だまりや倉庫街のごちゃごちゃに車体が埋もれたので、被写界深度を浅くしてみました。なみはや大橋が遠方に見えます。


西に傾いてきた陽がいい感じだったので、川の中央あたりでも。写真は、その場所その時間との出逢いなので、面白いですね。


実は最近まで使われないままここにあった、かつての大阪臨港線の橋梁を見に来たのですが、残念ながら2019年の秋に撤去されたそうです。左手の凹んだ部分と右手の白い水門の部分が橋梁で渡されていました。


ウィキメディア・コモンズから、2011年の橋梁の様子です。橋桁は複線分が設けられていたものの、最終的に複線としては使われなかったそうです。


せっかくなのでそのすぐ近くの、甚兵衛渡船場を見にきました。大阪市の公営渡船は現在8航路が運航されていますが、その中で最も利用客が多いそうです。対岸から到着すると、人と自転車が乗り込んですぐにまた出航。勢いよく出航した渡船はUターンしてまた戻ってくるような円弧を描き、またUターンして対岸に到着。手前の渡船場で左舷の出入口から乗り込んだので、そのまま円を描いて対岸でも左舷から下ろすと思っていたところ、S字を描いたので驚きました。


陽がだいぶ傾いてきたところで大阪港ダイヤモンドポイントのことを思い出し、天保山に戻ることに。みなと通まで出て直線で大阪港駅方面へ。みなと通には車と歩行者それぞれから分離された自転車道が整備されているので、安全で便利なルートです。

天保山運河を越える千舟橋からは、阪神高速の料金所を見下ろしたり…


中央線を走るOsaka Metroの列車を眺めたり…と楽しいスポットではありますが、いよいよ日没の時間に近付いてきたので移動します。

冒頭の大阪港駅ホームでの写真にもあったとおり、中央線のラインカラーは大阪城公園の木々をイメージした緑ですが、近鉄けいはんな線と相互直通運転しているため近鉄の車両も見られます(写真は近鉄けいはんな線用7000系)。

日没には間に合いました。逆光で撮るのは難しいですが、夕方の大阪港ダイヤモンドポイントからの風景です。大阪にもこんな場所があったんだなぁと、改めて気付かされました。


今回巡ったポイントと走行ルートです。同じ道を何度も往き来したところもありルートは簡略化していますが、実際に走行した距離をマップ上で図ると約14kmでした。今回は大阪港ダイヤモンドポイントの夕陽を見るために天保山に戻ってきましたが、自転車散歩のスタートとゴールを異なる駅にすればコースの自由度はさらに広がります。自転車を利用して少し足を延ばせば、新しい発見がたくさんあります。いきなり輪行ではなくご自宅や最寄駅から自転車散歩を始めてみるのも、いいかもしれません。



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今回からスタートした「ローカル駅からはじめる自転車散歩」は如何でしたか?日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。今回はMu SLXという車体が登場しました。輪行に向いた折り畳み自転車を選ぶ際は「折りたたみ方法がシンプルで簡単なタイプ」「折りたたみ時によりコンパクトになるタイプ」「折りたたみ時に持ち運びやすい形になるタイプ」「車体が軽いタイプ」といった点を重視すればベストです。DAHONでは様々な折り畳み自転車(フォールディングバイク)をラインナップしていますが、走行機能と折りたたみ機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあった製品を選んでください。

DAHONでは今後、様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載いたします。更新時にはFacebookやTwitterでお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。また近々「ローカル駅からはじめる自転車散歩」専用のInstagramアカウントもスタートしますので、こちらもぜひチェックをお願いします。


*使用車体
 DAHON / Mu SLX(ドライレッド)2021年モデル

*この記事で紹介している情報は、2021年1月時点の取材に基づいています。