ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事。今回は千里ニュータウンの南端、阪急電鉄 千里線の南千里駅を起点に、紅葉のある美しい風景を巡ります。
* * *
千里ニュータウン(以下、NT)と言えば、とにかく「緑」。日本初の大規模ニュータウン構想として注目された千里NTは、1962年のまちびらきから半世紀が過ぎ再開発が急速に進められる一方、公園や街路樹、緑地帯などの木々は昔と変わらない景観を留め、またより一層美しく立派に成長しています。
道路環境については、自転車専用道路はほとんど見られませんが、土地の高低差を利用して車道沿い以外のところで自転車歩行者道のネットワークが張り巡らされていて、住宅街の中や公園を縫うように自転車散歩を楽しむことができます。通過交通を避けるように配置された道路は交通量が少なく幅員も広いため、車道左側での自転車の通行にも好都合です。
前置きはそれくらいにして、さっそく自転車散歩に出掛けましょう。こちらは、今回起点とした南千里駅の北側。昭和の頃は盆踊りも行われた広い噴水広場がありましたが、商業施設も建て替えられすっかり様変わりしています。
|
今回の車体は、クロモリフレームのBoardwalk D7。ベーシックな折り畳み方で、誰でも直感的に取り扱えます。 |
まずは駅から東へ進み、高野台へやってきました。こちらは、NT開発前の丘陵地形の一部が残された、起伏に富んだ敷地の高野公園です。昔は大和谷(やまとだに)公園と呼ばれていて、現在保育園のある場所には南千里市民プールがありました。
|
写真には写っていない左右はすり鉢状の斜面になっていて、もともと谷地で水が集まりやすい所にプールを置いたようです。当時は高度成長期の終盤で、核家族化も頂点に達した頃。市民プールはファミリーや夏休みの小中学生で、随分賑わっていました。 |
高野公園を抜けて、高野台を南北に貫く通りへ。南へ向かえば高野台中学校、北へ向かえば千里高校。特に愛称などもない通りですが、静かに、美しく紅葉した街路樹が並んでいます。
ふと目についたマンホール蓋。1970年の大阪万博のシンボル、岡本太郎さんの太陽の塔が中央に配されています。
|
吹田市内では一般的なこのマンホール、後で調べると周囲には市民の木クスノキと、市の花サツキがデザインされていました。 |
ヒメボタルの説明板が立つ、山田西公園の入口です。山田西公園は、NTの環境を守るためにNT全体を外周緑地で囲んだ千里緑地の中にあります。
山田西公園には地元の方が多く散歩されていました。高明池を泳ぐカルガモをぼーっと眺めにくるだけでも、価値がありそうな場所です。
山田中学校と西山田小学校の南側は、自然のままの雑木林が残された非常に緑深い千里緑地を散策できます。
|
千里緑地のヒメボタルは吹田市の天然記念物になっていて、毎年5月下旬に多く発光するそうです。 |
高野台の北側から東側へ。高野台スポーツグラウンドの周りには美しい紅葉スポットが広がっていました。
|
近くの保育園の子どもたちが、先生と落ち葉を拾っていました。何かの工作に使うのでしょうか。 |
見上げると色とりどりの葉っぱ。朝方は晴れたり曇ったりだった空も、青空が広がってきました。むらさき公園にかけての道は、もみじのトンネルが続いています。
むらさき公園の南側、東西に走る府道135号は、約3.5kmのイチョウ並木として有名な「千里ぎんなん通り」です。かつては千里1号線とも呼ばれていました。自転車で走りながら色々な場所で撮ってみましたが、高野台中学校前の歩道橋の上からのアングルが、いちばんしっくりときました。
|
この歩道橋は、橋桁には「高野台歩道橋」と書かれていますが、後から資料(1969「千里」、2013「千里ニュータウンマップ」)で見ると「いちょう橋」と記載されていました。 |
「千里ぎんなん通り」を西へ進むと、右手が高野台、左手が佐竹台。佐竹台に入り、ぼだい(菩提)池のある佐竹公園にやってきました。木々が多く、水辺も近く感じられるように作られているので、ゆったりとした散策や休憩に気持ちの良い公園です。
|
写真は池の北側。佐竹台という地名は、もともとこの地には大字佐井寺が90%以上も位置し、その区域のほとんどが竹林であったところから名付けられたそう。 |
|
佐竹台は1962年に誕生した日本初の大規模NT、千里NTの中でも最初にできた住区。公園の木々も、半世紀を超えて大きく成長しています。春は桜、夏は蓮(ハス)が美しく咲きます。 |
|
池の東側のメタセコイアの並木も立派に育っています。 |
阪急の高架をくぐって桃山台へ。千里丘陵を開発して作られた千里NTの土地は起伏に富み、車と出会うことなく住区内を周ることが可能な自転車歩行者道が張り巡らされていることから、谷筋の、川ではなく車道を渡る歩道橋もたくさんあります。
|
写真は、桃山台2丁目と3丁目を結ぶ歩道橋(もものき橋)から。左奥にも自転車及び歩行者専用の青い標識が見えます。 |
桃山台の南西角は桃山公園、そのすぐ西には新御堂筋が通っています。道路の両脇ではちょうど、イチョウ並木が美しく紅葉しています。大阪市内から千里に入る際に目にすることの多い、千里の緑の多さを象徴する風景です。
新御堂筋沿いのイチョウに対して、春日大池を取り巻く公園内側はメタセコイアに似たラクウショウが紅葉中。改めて考えると、針葉樹も紅葉するのですね。
サイクリングの前半は公園巡りのようになっていますが、ちょうどお昼時になったので南千里の駅前でパンを買い込み、千里南公園のベンチへ。公園は西側はカフェレストラン(bird tree)が出来てから特に人通りが多くなりましたが、こちらの東側は昔と変わらず穏やかな雰囲気に包まれています。
|
カフェが2019年に出来て人通りが多くなったからなのかは未確認ですが、公園の園路は原則走行禁止なので要注意。自転車を降りて押し歩きすることは問題ありません。 |
|
写真は、公園南側から西側を見たカット。左の立派な並木はラクウショウ(公園内にはメタセコイアも)。伝承から名付けられた池の名前(牛ヶ首池)は1968年に住民からグロテスクと指摘されて「あやめ池」に改名したものの、また元に戻したという経緯があるそうです。 |
公園南東部では阪急電鉄唯一の山岳トンネルとなる「千里トンネル」を直近に見られるので、鉄道ファンには有名なスポットかもしれません(阪急電鉄の子会社の能勢電鉄にはトンネルは有ります)。
南公園から北に進むとすぐ、このようなロータリー交差点があります(津雲台2丁目ロータリー)。千里NTの実験都市らしい側面を象徴するもののように思います。横断歩道に対する一時停止位置はあるものの、ラウンドアバウトと呼ぶべきかは詳しくないので分かりません。
幼稚園を横目に九十九坂を少し上ると、津雲台小学校の前から長く急な下り坂。そして保育園を通り過ぎる頃に見えてくるのが、またロータリー(津雲台5丁目ロータリー)です。
千里NTは中国自動車道や大阪モノレールも走る大阪中央環状線を境に南北に分かれます。前半の南側をゆっくり散策して時間がだいぶ過ぎたので、今回の最大の目的地に徐々に向かうとします。津雲台から古江台へは、スロープで自転車も行き来できる弘済橋でショートカット(狭いので押し歩きましょう)。振り返るとちょうどモノレールが。小さな子どもも喜びそうなスポットです。
緩やかながらも長い坂を上って、古江公園へ。団地や線路に囲まれていながらもそこそこ広くて樹木も多く、小学校が終わる昼過ぎまではとても静かな様子です。千里NTは人工的に作られた街ですが、5、60年経った公園の風景は既に本物の自然とも言えます。
古江公園から阪急の線路沿いに坂を下ったところで、美しい景色が視界に飛び込んできました。今回は紅葉スポットを少し調べながら巡っていたのですが、全く予想していなかった突然の出会いです。坂道沿いの土手に植えられたメタセコイアが、西に傾きかけた太陽の光に照らされてキラキラ輝いています。
線路を東側へくぐり、坂道を上り終えたところにあるのが、藤白台2丁目ロータリー。千里NTにあるロータリー交差点は、これら3箇所のみではないかと思います。奥のマンションの場所には以前は藤白台近隣センターがあったのですが、1965年春のオープン直後に映画のロケで吉永小百合さんが来られ、1966年には昭和天皇が視察でロータリー周回、1968年には当時の皇太子ご夫妻もお見えになった由緒ある場所だそうです。
|
「近隣センター」は約60年前、生活に必要となる機能を計画的に配置する「近隣住区論」の考えから各地区に開設された、NT版商店街のようなものです。藤白台近隣センターはNT内で唯一、組合が一括して土地・建物を保有し経営していたことから、スムーズに再開発事業が行われ再生されました。 |
お待たせしました。今回の最大の目的地が、こちらの紅葉スポット「三色彩道」です。初めて知りましたが、ちょっとした人気スポットになっている様です。こちらの写真は保育園前の交差点から東を向いたカットで…
|
タイワンブウ、アメリカフウ、トウカエデといった街路樹が、春(新緑),秋(黄葉),初冬(深紅)と1年を通して3色に変化することから「三色彩道」と命名されたそうです。(注:横断歩道から撮影しています) |
こちらの写真は、交差点から西を向いたカットです。坂を下り切ったところに阪急の高架が見えます。自転車を停めて写真を撮っていると、二人連れの女性から「ここのマンホールも見たぁ?」とご親切に助言が。この場を借りて、ありがとうございました。
|
教えていただくまで存じ上げませんでしたが、吹田市によるデザインマンホール蓋の取り組みで、紅葉が美しい「三色彩道」の風景が切り取られていました。 |
起伏のある千里NTでのサイクリングは、なだらかながらも終始上ったり下ったりの坂道ばかり。自転車だからこその気持ち良さを堪能できますが、1日中走っていると地味に疲れてきます。小休止した青山台近隣センターの前にも、NTらしい歩車分離を象徴する歩道橋が。
気になったので歩道橋まで上ってみたら、素敵な景色が広がっていました。右手は青山公園、遠く向こうに見えるのは箕面の山です。走り回って疲れましたが、徒歩だと困難な距離も自転車だと欲張ってどんどん進めてしまいます。
|
千里NTといえば建築好きや団地マニアに注目されている個性的な団地も有名ですが、それだけで大きなテーマになってしまうので今回はスルーしています。 |
青山台を抜け、新千里北町、新千里東町の気になる道を散策。古江台にある千里中央公園に到着した頃には、だいぶ陽が傾いていました。少しカタログ的ですが、今日の記念に落ち葉の絨毯の上で車体を撮影。子どもたちの遊ぶ声に混じって、あちらこちらから野鳥の鳴き声も聞こえます。
|
今回の車体はDAHONの昔からの人気モデル、Boardwalk D7(ブリテッシュグリーン)。洗練されたヨーロピアンスタイルが、紅葉のある街並みにも似合います。 |
今回巡ったポイントと走行ルートです。ちょうど20kmほどですが、全体的にアップダウンのある自転車で走って気持ちのいいルートでした。今回は紅葉のある風景を求めて走りましたが、例えば春には桜の美しい風景を求めてサイクリングするのもおすすめです。また千里NTには総合公園 3カ所、地区公園 3箇所、近隣公園 12箇所、街区公園 22箇所の公園、外周を取りまく周辺緑地(千里緑地)が約88ha整備され、それら以外のちょっとした細街路や個人住宅の庭先にも豊かな緑が溢れています。自分だけのお気に入りのスポットを探してみるのもきっと楽しいことでしょう。
* * *
今回の「ローカル駅からはじめる自転車散歩」は如何でしたか?久しぶりの関西編は、日本初の大規模ニュータウンとして開発された千里ニュータウンを取り上げました。観光地ではなくても自分なりの気付きや感動があれば、知っているつもりだった地域でも走ると案外楽しいものです。日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。今回利用したDAHON(ダホン)のBoardwalk D7は、気軽にもスポーティーにも乗れる人気のロングセラーモデルです。皆さんもDAHONの折り畳み自転車(フォールディングバイク)を持参して、自転車散歩という休日の愉しみはいかがでしょうか。DAHONでは様々な折り畳み自転車をラインナップしていますが、走行機能と折りたたみ機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあった製品を選んでください。
DAHONでは様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載しています。更新時にはFacebookやTwitterでお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。また「ローカル駅からはじめる自転車散歩」のInstagramアカウントもぜひチェックしてみてください。
*使用車体
DAHON /Boardwalk D7(Color:ブリテッシュグリーン)2022年モデル
*この記事で紹介している情報は、2021年11月時点の取材に基づいています。
*歩行者のいるところや細い路地などは押し歩きや迂回するなど、マナー優先でサイクリングを楽しみましょう。