ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事。今回は、JR常磐線の北千住駅からスタートします。
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千住といえば下町を代表する街の1つ。毛細血管のように細い道が入り組んでいて、多くの人でごった返しているイメージです。元々は江戸時代に整備された日光街道最初の宿場町として栄えたのが千住宿。今も東武線やJR常磐線の駅として大変な賑わいです。実際のところ、北千住駅はJR東日本管内の中でもベストテンに入る乗降者数の多い駅です。今日はこの駅からスタートし、隣の南千住駅に向かって走っていきたいと思います。
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公共交通機関を利用して自転車を運ぶことを輪行(りんこう)といいます。サイクリングや旅行の行程の一部を自走せずに鉄道、船、飛行機、バスなどを利用するもので、遠くへ移動したり、時間を短縮することができます。
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北千住駅近くを旧日光街道が走っています。千住宿だったときの目抜通りですから、その街道沿いに自転車を走らせていきましょう。旧街道なので、道路幅は狭めです。道の両側にはお店が連なっていて、その路上ではセール品などを各店舗が並べています。そこを縦横無尽に人や自転車が走り回り、車も通ります。つまり、令和時代も賑わいを見せています。
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千住ほんちょう公園にて。君はいったい岩陰から何を覗き見しているのだ?
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開店前のお店。シャッターも宿場町の雰囲気を漂わせています。
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こちらは横山家住宅。足立区登録有形民俗文化財に登録もされています。江戸時代には再生紙の販売で栄えた商家だったそうです。
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戊辰戦争では彰義隊が利用したことで柱に刀傷が、また太平洋戦争では焼夷弾の影響もあったとか。
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今日はとても暑くなることが予想されています。しっかりと腹ごしらえをしないと暑さに太刀打ちできません。団子屋さんの軒先に自転車を停めて、椅子に腰掛けながら団子を頬張れば、江戸時代の旅人気分。すると、隣に座っていたおじさんから、これは折り畳み自転車ですかと質問を受けました。
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今回乗っている自転車はVisc
EVO。20段変速に加えて大きな目のタイヤでもあり、峠を超えるような長距離のサイクリングも可能です……とその走行性能を自慢していると、おじさんはさらにいろいろと質問を重ねてきて、自転車談義に花を咲かせることに。きっと昔の旅人もこのように休息をしながら、会話を楽しんだことでしょう。
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街道沿いに先に行けば、今度は焼鳥屋を発見。朝からすごい数の焼き鳥が焼かれています。おいしそうなタレの匂いにつられて、ついついここでも購入しています。さっきから食べてばっかりですね。
このまま街道を進んでしまうと宿場を抜けてしまいます。ここでUターンをして宿場内の探検と行きましょう。先ほどは街道の目抜通りを抜けてしまいましたので、今度は裏道を走ります。北千住界隈はどういうわけか路地裏がとても多いので、路地裏探検の開始です。地図アプリにも載っていないような路地裏もありそうです。
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例えば、この路地裏、真ん中にコーンが建てられています。「この先行き止まり」との記載がありますが……。
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何の問題もなく、通り抜けていくことができました。
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別の路地裏にて。路地裏にお寿司屋さんあり。このようなところで経営が成り立つのが不思議です。
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道が狭く、自転車がすれ違うのも困難なくらいの細い路地が続いている場所もたくさんあります。
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これでも広めの路地です。
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夜の繁華街でしょうか。飲食店が軒を連ねています。
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破天荒だけど人情味あふれる下町出身の警察官を描いた漫画がありましたよね。主人公の警察官が階段上から声をかけてきそう。
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路地裏を抜けて、(細い道だけど路地裏と比較すれば)ちょっと大通りに出ると、かき氷の看板を発見。本日の気温はすでに30度を超えています。誰に誘われるでもなく、自然とかき氷店に足が向かってしまうのは仕方がないことですよね。
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氷で利用する水と茶器にこだわった千住茶房にて。ふんわりとした氷にブルーベリーの甘さが染み渡っていて、火照った体に染み込んできます。
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折り畳み自転車を使って千住の街の路地裏探検をしていることを伝えると、ぜひとも訪れた方が良い!と勧められたカフェがありましたので、今度はそのカフェに向かって自転車を進めます。
かき氷の後に飲むコーヒーはきっとおいしいでしょう……と思ったのですが、残念ながらオススメされたカフェは定休日。しかし、気分はすでにコーヒーですから、カフェを探さないといけません。ふと横に目を向けると、神社の境内にコーヒースタンドだ!
神様は私の気持ちをよく理解してくれているのですね。さっそく自転車を押していき、コーヒーを注文。かき氷で癒された後のカフェイン摂取が最高です。
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店主は地元出身の人、近々足立区花火大会が開催されるとのことでとても興奮されていました。今日もすごい人だかりであるように感じますが、当日はもっともっと人で溢れるそうで、下町の熱気を感じずにはいられません。
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マスターから、「北千住に来たならぜひ訪れて欲しいお店がある」とアドバイスをされましたので、せっかくだからそこに足を向けてみよう……って、ぜんぜん前に進めません。このままでは街を抜けるのが夕方になってしまう!断腸の思いであらためて訪問をすることにし、南千住に向かいます。
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千住大橋北詰には松尾芭蕉の像あり。奥の細道はここからスタートしたそうです。
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南千住に向かうには、隅田川を越える必要があります。隅田川の北側が足立区で北千住、橋を越えた南側が荒川区の南千住です。
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千住大橋と呼ばれているこの橋は、隅田川に架かる橋の中でも最も古い歴史があります。江戸時代初期には防衛目的で隅田川にかかる橋はこの橋だけでした。ただ大橋とは名ばかりで、実際の橋は全長90メートルちょっとで、とても小さな橋なのです。江戸時代はこれでも大橋だったのでしょう。
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千住大橋を超えると南千住。そこで最初に目にするのが素盞雄神社(すさのおじんじゃ)です。名前がとても珍しいですが、その名前の通り、スサノオノミコトを祀っている神社です。木陰で少し休んでから、先へと進みます。
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素盞雄神社の境内には富士塚もあり、とても尊厳な神社であることがうかがえます。
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旧日光街道にそって進めば、線路と南千住駅が見えてきます。駅の横にあるのが延命寺。ここはもともと小塚原刑場になります。
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千住を通って江戸に入るとき、最初に見にするのがこの場所。江戸幕府は処刑場をここに置くことで、江戸に入って悪さをするとこうなるぞ!と見せしめにしたと言われています。東海道に位置する鈴ヶ森処刑場と並んで有名な二大刑場として知られています。幕末には吉田松陰や橋本左内などもここで処刑にあったと伝えられています(安政の大獄)。
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このように書かれた説明文を読んでいると、怖い場所にいるなと感じて、ぞくっとします。ちょっと自分の周りの気温が下がったような気がしないでもありません。
南千住駅の横はJR貨物の隅田川駅もあります。歩道橋を押して渡っていると、複数の線路が見えてきます。
隅田川駅と名前がついている通り、川からすぐ近く、もともとは運河があって隅田川駅→運河→隅田川という経路で荷物が運ばれていく(来た)と思われます。駅周辺を走っていると、その名残を示す横断歩道が1つありました。
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駅周辺に説明文や記念碑などが発見できませんでしたが、地名に歴史あり。
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横断歩道の先には、やはり運河と思われる跡地がありました。今は公園の一部になっているようです。(荒川区立瑞光橋公園
汐入水門跡)
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少し進んだ汐入公園の辺りには、以前は住宅街や原っぱが広がっていました。40年ほど前は強面のおじさん、明るいおばさん、駄菓子屋のおばちゃんなどもいた住宅街。原っぱに寝転がり花火大会をみたりすることができましたが、再開発にともない、当時の面影は全く残っていません。あのころに思いを馳せながら、汐入公園を隅田川沿いに走って行きます。
隅田川沿いにサイクリングロードはほとんど存在しないのですが、ここは特別。川沿いのサイクリングを楽しめます。とは言うものの、夏の日中に走ると日差しも強く、立ちくらみがしそうです。そよ風を楽しむというよりも日差しに晒され干からびてしまいそう。近くのお寿司屋さんに訪問し、冷やされたお茶と鉄火丼でエネルギーを蓄えて、今日の旅路を終えました。
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南千住駅で輪行して帰宅しました。スタートとゴールが違うのも輪行サイクリングのメリットです。
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今回巡ったポイントと走行ルートです。距離は約9km、歴史や風景の移り変わりを感じられた自転車散歩でした。
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今回の「ローカル駅からはじめる自転車散歩」は如何でしたか?日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。DAHONでは様々な折り畳み自転車をラインナップしていますので、走行機能と折り畳み機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあったモデルを選んでください。
DAHONでは様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載しています。更新時にはFacebookやTwitter、Instagramでお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。
*使用車体
DAHON / Visc EVO(Color:ディビジョンシャンパン)
*この記事で紹介している情報は、2023年7月時点の取材に基づいています。
*自転車に乗車する際はヘルメットを着用するとともに、歩行者のいるところや細い路地などは押し歩きや迂回するなど、マナー優先でサイクリングを楽しみましょう。