ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事。今回は小田急電鉄 小田原線 豪徳寺駅を起点に、招き猫いっぱいのポタリングレポートをお届けします。
新宿駅から本厚木行きの各駅停車に乗って約15分、やってきたのは小田急線の豪徳寺駅。駅前でDove Plusをすばやく組み立て、まずは招き猫生誕の地とか、招き猫に埋め尽くされつつあるとか、世界中から猫好きが集まっているとか、ウソかマコトか、さまざまな招き猫エピソードのある豪徳寺に向かって、走り出したいと思います。
豪徳寺駅があるのは東京都世田谷区豪徳寺1丁目。豪徳寺駅のすぐ隣には東急世田谷線の松原駅があります。 |
走り始めて約2分。すぐ近くの踏切でこれから行く豪徳寺ゆかりの「幸福の招き猫電車」に遭遇。この電車は小田急線の車両ではなく、豪徳寺駅の真下で立体交差する東急世田谷線(以下世田谷線と記載)の車両です。ちなみに世田谷線は軌道線、いわゆる路面電車です。
招き猫電車は、2017年に世田谷線の前身である玉電(玉川電気鉄道)開通110周年を記念して企画されたラッピング電車。一度姿を消したものの、世田谷線開通50周年にあたる2019年に再登場し、それ以降休むことなく運行されています。世田谷線を走る車両は全部で10編成。そのうちの1つがこの招き猫電車なので、遭遇する確率は1/10ということになります。 |
豪徳寺駅から世田谷線の線路沿いに南へ走って約5分、世田谷線宮の坂駅に到着。
世田谷線のほとんどの駅には改札がありません。運賃はバスと同じように車内で支払うしくみです。 |
宮の坂駅には、かつて世田谷線を走り、その後江ノ島電鉄でも使用された車両「東急デハ87(江ノ電601号)」が展示されています。東急デハ87は大正14年に製造された木製電車。途中で鋼鉄車体に改造され、平成2年まで現役で走っていたそうです。
車両内部は開放されていて、地元の方々の憩いの場となっています。取材時、ひとりの女性が読書をしていました。 |
宮の坂駅から走ること数百メートル、紅葉の豪徳寺に到着しました(取材は昨年の11月下旬に行っています)。
ここで簡単に豪徳寺が招き猫の寺である理由を説明しておくと――江戸時代のある日、たまたま寺の前を通りがかった彦根藩主の井伊直孝が、門の前にいた猫の手招きにしたがって寺に立ち寄ったところ、突然雷が鳴り雨が降り出したそうです。猫のおかげで雷雨を避けることができた井伊直孝はこの寺に不思議な縁を感じ、井伊家の菩提寺に定めました。小さなお寺だった豪徳寺はその後大きく発展し、いつしか豪徳寺には幸福を招く猫がいるという伝説が生れ、家内安全や商売繁盛を願うたくさんの人々が集まるようになった――これが豪徳寺の招き猫伝説の概要です。では早速、豪徳寺の招き猫たちを見ていきたいと思います。
社務所で販売されている大小さまざまな招き猫。招き猫を買って家に飾り、願いごとが叶ったら、お寺に奉納するしくみになっています。
こちらが招き猫の奉納所。大小合わせて数千の招き猫が所狭しと並べられていて、今もなおその数を増やしつつあります。
一匹だけ顔の違う招き猫が混ざっています。どこにいるかわかるかな? |
太眉の招き猫もいたりします。 |
絵馬も猫仕様です。 |
せっかくなので300円出して、一番小さな招き猫を購入しました。
招き猫とのフォトセッションその1。リアキャリアバッグ(Rack Bag)の上に置いて撮影。「すべてのDAHON乗りに福が来ますように」
招き猫とのフォトセッションその2。Dove Plusのフレームの上に置いて撮影。「不安定だニャン」
豪徳寺は井伊家の菩提寺なので、幕末期、安政の大獄で多くの尊王攘夷派を粛正し、その後桜田門外の変で暗殺された井伊直弼のお墓もあります。大河ドラマなどで悪役として描かれることの多い井伊直弼ですが、おそらく彼には彼の正義があったのでしょう。
きれいなお花が供えられていました。 |
豪徳寺見学のあとは、世田谷線沿いをのんびり走りながら、次の目的地の松陰神社に向かいたいと思います。
宮の坂駅のとなりの上町駅。ホームに招き猫電車が停まっていました。
上町駅のそのまたとなりの世田谷駅近くのまちもりカフェ。世田谷名物の「たまでん羊羹」はここでしか売ってないと聞いてやってきました。ここでたまでん羊羹を買って、すぐ近くの「世田谷電車の見える公園」で食べたいと思います。
まちもりカフェを運営しているのは世田谷駅前商店街振興組合。地元の方向けの託児所も併設されているアットホームな空間です。 |
これがたまでん羊羹。世田谷線の車両をイメージしたパッケージになっています。中身は普通のひとくち羊羹です。
通り過ぎる電車を見ながら食べる羊羹は甘くて美味しかったです。
路地にかかる小さな踏切とのんびりとした速度で通り過ぎる招き猫電車。世田谷線沿いにはこういった風景が溢れています。
松陰神社に到着。松陰神社はその名のとおり幕末の思想家吉田松陰を祀る神社で、彼のお墓もあります。吉田松陰は井伊直弼が行った安政の大獄によって獄死していますが、ふたりのお墓がすぐ近くにあるというのも何か不思議な因縁を感じます。
境内に掲示されていた吉田松陰の言葉。西遊日記という旅行記の中に書かれている、旅することの有益性を語る文章の一節です。『機会というものは人との触れ合いによって生まれ、感動することによって動き出すものである』というような意味だと思います。輪行の喜びと幸せもこの一文に集約されているような気がしました。
5つあるお墓の真ん中が吉田松陰のお墓です。安政の大獄で処刑された後、吉田松陰のお墓は千住(現在の荒川区南千住)の回向院というところに建てられたのですが、回向院は罪人のお墓が数多く建つ場所で、門下生の高杉晋作や伊藤博文が「先生は罪人ではない」と言って、長州藩の屋敷があったこの場所に改葬したそうです。
墓所見学のついでというのも変ですが、せっかくなので吉田松陰の辞世の句を紹介しておきます。「身はたとえ 武蔵の野辺に朽ちぬとも 留めおかまし 大和魂」。なんとなく吉田松陰の魂に触れたような気がする場所でした。
再び自転車散歩に戻ります。松陰神社の近くに有名な撮り鉄スポット、若林踏切と天神歩道橋があるので見に行きたいと思います。
若林踏切に到着。若林踏切は世田谷線と環七通り(環状七号線)が交差する場所にある遮断機のない踏切です。遮断機がないので、通過する電車に人が接触しないよう、地面に大きな注意書きがしてあります。
電車がやってきました。すぐ近くを通るので、2両編成の路面電車とはいえ、なかなか迫力があります。ちなみに路面電車とはいうものの、世田谷線が道路上を走るのは環七通りと交差するこの場所だけです。
電車が来るのを待ち構えて撮ったのに、顔の部分が日陰に入ってしまいました(泣) |
環七通りを横切る招き猫電車。
猫の顔が逆光になってしまいました(泣) |
2枚連続でヘタクソな鉄道写真をお見せして申し訳ありません。動く電車を撮影するのは想像以上に難しかったです。いざ撮ってみたら車体が日陰に入っていたり、太陽の光が車体に反射してハレーションを起こしていたり。撮り直しに次の電車を待つのも地味に大変でした。10分も待てば次の電車が来る世田谷線でも大変なんだから、本数の少ないローカル線の場合はもっと大変なんだと思います。撮り鉄の方々の苦労がほんの少しわかった気がします。
口直しにすてきな路面電車の写真を見たいという方は、「ローカル駅からはじめる自転車散歩/阪堺電車 上町線 住吉駅」をご覧ください。ステキな路面電車の写真がいっぱい載っています。
気を取り直して、天神歩道橋からの撮影を試みたいと思います。歩道橋の上から、環七通りを悠然と横切る路面電車を撮影できる場所として有名です。
片側2車線の環七通りにかかる天神歩道橋。東京の方にとってはいまさらな情報ですが、環七通りは一日中ずっと混んでいるものすごく交通量の多い道路です。 |
歩道橋の上から撮った環七通りを横切る世田谷線の車両。そこそこいいかんじに撮れたのではないでしょうか。
慣れない撮り鉄活動に悪戦苦闘したせいか、おなかが空いて、なにか温かいものが食べたくなりました。宮の坂駅のすぐ近くで、味わい深い外観のたこ焼き屋さんを見かけたのを思い出し、早速行くことに。どうですか?この佇まい。
たこ坊宮の坂店。大阪府出身のステキな女性がたこ焼きを焼いていました。 |
店の前で立ったままたこ焼きを食べようとしたら、宮の坂駅に展示されている路面電車の中で食べるのがいいよ、と店員さんが言うので、中で食べて大丈夫かな?と思いながら行ってみると…
たこ坊さんのたこ焼き |
条件付きで飲食OKでした。おおらかなスタンスに感謝。
たこ焼きを食べ終わり、ふたたび豪徳寺駅に戻ってきました。スタートの時には気付かなかったのですが、高架下に招き猫の石像を発見。記念撮影をして、今回の招き猫巡りポタリングの〆にしたいと思います。
今回巡ったポイントと走行ルートです。約7kmと距離は短めでしたが、発見の多い自転車散歩となりました。お腹が空いたのでさっき見かけていたたこ焼き屋さんに行ってみよう、と気軽に移動できるのが自転車散歩の楽しいところですね。
今回の「ローカル駅からはじめる自転車散歩」は如何でしたか?日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。今回利用したDAHON Dove Plusは小さくて超軽量、小回り性能抜群の折り畳み自転車で、細かな道が入り組んだ世田谷の住宅地を走るのにぴったりでした。皆さんもDAHONの折り畳み自転車(フォールディングバイク)を持参して、自転車散歩の愉しみはいかがでしょうか。DAHONでは様々な折り畳み自転車をラインナップしていますので、走行機能と折り畳み機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあったモデルを選んでください。
DAHONでは様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載しています。更新時にはFacebookやTwitterでお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。また「ローカル駅からはじめる自転車散歩」のInstagramアカウントもぜひチェックしてみてください。これまでの記事は、こちらの一覧からご覧いただけます。
*使用車体
DAHON / Dove Plus(Color:ポリッシュ)2023年モデル
*この記事で紹介している情報は、2022年11月時点の取材に基づいています。
*歩行者のいるところや細い路地などは押し歩きや迂回するなど、マナー優先でサイクリングを楽しみましょう。