2024年6月25日火曜日

ローカル駅からはじめる自転車散歩【東京メトロ 丸の内線 新宿御苑前駅】

ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事。今回は、東京メトロ 丸の内線の新宿御苑前駅からスタートします。


 

* * *

 
突然ですが、阿佐ヶ谷、荻窪、高円寺、新宿、中野、三鷹、みなさんは新宿から順番に並べることができますか。私にはできません。なんとなく、新宿より西側に位置する東京の地名、ベッドタウンになっている、立川や八王子まではいかないけれど、中央線沿線。その程度の認識なのです。実際に並べてから答え合わせをしてみると、

「あ、吉祥寺が抜けていた。」

そのくらいの地理感覚しか持ち合わせていないエリアです。沿線で暮らす方にとってはお馴染みの地名も、東京で暮らしていない私には異国の地と同義。

そこで、新宿からスタートして、その異国の地を自転車でゆっくりと走りながら、街を探検してみようと思い立ちました。自転車で走れば、知らない土地こそ、恰好の冒険の地。特別な観光地では無いけれど、東京のベッドタウンともいえる土地を自転車でのんびりと走ってみよう!と、この企画にピッタリなコースだと思った次第です。

私にとっては「予定の無い休日の朝」。世間では、普通の平日です。新宿御苑前駅に降り立つと、ビジネスマンと思われる方々が忙しくしています。

「今日のランチは饂飩にしようか、それともラーメンにする?」

そんな会話が背中から。朝はゆっくりしていたので、すでにそういう時間なのか。確かに日差しも強い気がします。大都会の新宿でひとり、自転車をいじっていても誰も気に止めていない。雑踏の中で邪魔にならない場所をみつけて、折り畳み自転車を展開し出発の準備を整えていきます。

公共交通機関を利用して自転車を運ぶことを輪行(りんこう)といいます。サイクリングや旅行の行程の一部を自走せずに鉄道、船、飛行機、バスなどを利用するもので、遠くへ移動したり、時間を短縮することができます。

ところで、新宿と名前がつく駅は全部でいくつあるでしょうか。正解は9つ。

  • 新宿駅
  • 新宿御苑前駅
  • 新宿三丁目駅
  • 新宿西口駅
  • 西武新宿駅
  • 西新宿駅
  • 西新宿五丁目駅
  • 東新宿駅
  • 南新宿駅

全部合わせると、1日の利用者数は350万人にも及ぶとか。新宿ダンジョンとも呼ばれる界隈です。ダンジョンですから彷徨うのにピッタリ。この界隈を東から西へ進んでみましょう。

まずは新宿1丁目1番地を探します。新宿から西に向かうのであれば、格好のスタート地点といえます。地図アプリに入力すれば、すぐにわかるでしょう。が、それは野暮。せっかくの探検ですから、電信柱にある住所表記を参考にしながら、ふらふらと彷徨います。新宿御苑のあたりは内藤新宿の宿場町エリア。このあたりが1丁目だろうと考えたのは大正解です。1丁目はすぐに見つかりましたが、1番地はなかなか見つかりません。32番地、28番地……。というように少しずつカウントダウンをしていく標識をみながら、走っていくのは宝探しの地図をみているかのよう。少しずつ興奮していきますね。


やっと辿り着いた1丁目1番地。新宿御苑の大木戸口近くでした。


新宿1丁目界隈では、道一つ入ると綺麗に区画された路地が多く、この辺りをぐるぐると彷徨ってみました。ちょうどランチタイムが近いからか、お弁当を並べている人、お店の開店準備をしている人、早くもランチのお店で並んでいる人と多くの人が通りに溢れていました。このような光景を目にしていると、自然と私もお腹が減ってきました。

新宿御苑入口にて。朝顔が見頃を迎えていました。この公園の横を通る玉川上水、ここからはじまる渋谷川暗渠の話は以前の記事を参照してください。


新宿1丁目、つまり江戸時代の中心地から、西へ少し進むと、新宿3丁目の交差点に到着します。「伊勢丹があるところ」といえば、「ああぁ」とわかる人もいるでしょう。この交差点は今も昔も甲州街道と青梅街道の分岐点、つまり追分です。3丁目交差点近くには追分団子というそのものズバリの名前の和菓子屋さんがあります。

追分を過ぎると、街がどんどんと賑わいを見せていきます。平日なのに、道にあふれんばかりの人だかりに加えて、路上駐車している車でいっぱいです。この活気と熱気こそが大都会。新宿駅東口のところで、右に(北側に)曲がれば、そこは歌舞伎町の入口。日中なので、街は落ち着いていますが、夜は歓楽街として賑わうところです。昨今の景気も相まって観光客も多く、様々な言語を話す人でごった返しています。まるで、どこか別の国の国境にいるかのよう。日本語で書かれた街の看板と遠くに見える有名な大怪獣が見えなければ、名の知れぬ大都会にいるような気持ちになったことでしょう。


ホテルグレイスリーに備え付けられているゴジラのオブジェ。そこへと続く道がゴジラストリート。ゴジラの吐く炎で街が燃えているかのような熱気に包まれていました。夜はもっと燃え盛ることでしょう。

東新宿側から高架をくぐり、線路の反対側に出ます。すぐに目につくのが「思い出横丁」。昔懐かしの雰囲気だからこそのネーミングかと思います。昼間から顔を赤くして美味しそうにビールを飲む人、令和では珍しくなったタバコを吸いながら食事を楽しむ人、さらに路地裏に続く横丁にカメラを向ける外国人観光客。間違いなく言えるのが、活気があるということです。

路地を進んでいくと、所狭しとお店が軒を連ねています。全部合わせると80店舗ほどあるそうです。

西口に辿り着くと、ここは副都心。都庁ビルを中心に綺麗に区画された広い道路を新緑と高層ビルが取り囲んでいます。綺麗に区画された並木道を通っていく人と車の流れを眺めつつ、横に目を映せば、京王プラザホテルへ停車するタクシーの流れが。大きなスーツケースを抱えて降りてくる観光客とホテルのドアマンたち。こういった光景も新宿の一面なのですね。


木々の間から抜けてくる風、落ち着いたビジネス街、遠くからはブラスバンドの演奏も聞こえてきます。同じ新宿なのに、東西でこんなにも違う光景を見せてくれるのが新宿の面白いところです。




さらに、新宿西口には、ビル街の中に中央公園があります。つまり、セントラルパーク。ニューヨークにある同名の公園とはサイズ感が全く異なりますが、都会の喧騒の中にある公園であるのは同じです。公園内は、歩行者に憩いの場を提供しているようです。「ようです」と曖昧な言い方になってしまうのは、あいにく、自転車は進入禁止だから。公園カフェでオシャレに休息をしたかったのですが、残念。


ここまでが、新宿の繁華街といえるでしょうか。ここからいよいよ住宅街が広がっているはずです。道を左折して(西側へ)路地に入ってみます。道をひとつ曲がると、そこは一方通行の細い道。もう笑ってしまうくらいに、ガラリと街の様子が変わりますね。

横幅が4mもないような細い路地。もちろん一方通行。路面に記された速度制限は20km/h。都会の喧騒が皆無。どうみても暗渠になっていると思われるウネウネとすすむ道。古いコインランドリーの看板。ちょっと進むだけで、完全にタイムスリップしたようなエリアに入ります。


さらに、側道にはいれば、両手も広げられないような路地。コンクリートの壁と植木。路面はかろうじてアスファルト。道はなだらかに曲がっていて進んでいます。手を伸ばせばすぐに届く住宅の窓。窓の向こう側からはラジオやテレビの音が聞こえてきそう。


ちょっと進んだ交差点には綺麗な紫陽花が咲いていて、その紫陽花の色が鮮やかで、見落としてしまいそうな民家の中にはカフェがあります。カフェの名前はケムリソウコーヒー。この街角に新しくできたばかりのカフェです。公式サイトの、

西新宿の片隅、古い小さな商店街の端っこの 

ほんの小さなコーヒー屋

という言葉通り、本当に片隅にあり、見つけるのが難しそう。商店街の端っこ?商店街というより住宅街の片隅にひっそりと佇むお店です。これはアタリ間違いなしと思い、自転車を停めて入店します。

木漏れ日が気持ちよく、ゆらゆら揺れる綺麗な内装。お店がオープンしてからまだ1週間も経っていないようですが、オジ様たちが応援団として駆けつけていました。すでに常連になっている様子で、マスターとの会話が盛り上がっている様子。私はその会話の腰を折ってしまったようで恐縮。

オジ様たちが退店されて、客は私1人となり、しばし、静寂な時間が流れます。しかし、それも一瞬。オバ様登場。すぐに近所のオバ様が来店され、会話とコーヒーを楽しんでいます。黄色はラッキーカラーだとか、宝クジがそれで当たったとか、そういう与太話。どうやら、このコーヒー店は早くも地元に愛されているのか、新宿路地裏の住宅街で憩いの場所となっているようでした。

コーヒーリフレッシュを挟み、再スタート。すでに時間は昼下がりです。このペースでいくと、どこまで探索できるのか心配になってきますが、探検を続けます。ちょっと進めば大通り(青梅街道)に出ますが、道を一本曲がれば、またすぐに静かな住宅街。この極端な違いに戸惑ってしまいます。防音されているのでしょうか。先ほどまでの喧騒が嘘のような静けさ。DAHON K9Xのタイヤの走行音しか聞こえません。


突然、神社が現れたので、思わず撮影。住宅街の一区画に神社が整然と立っていました。

えっと……。交差点に布袋尊。道端にある立派な像で、こちらも思わず写真に。

すこし人通りが増えてきたので、駅が近づいてきたのかな?と思ったところで、路面に目を向けると、10km/h制限。その制限速度が路面にデカデカと記載されているのはみた記憶がありません。20km/h制限ではなくて、10km/h制限。これって一般的な表記でしょうか。公道では非常に珍しいものだと思うのですが......。

道路横に目を向けると、緑道を発見。しばらくこれに沿って進んでみます。自転車と歩行者のみのようで、かなり走りやすい道です。このまま緑道沿いに進んでいくことも考えたのですが、変化を求めて道を変更します。


気がつけば中野のアーケード街に到着していました。平日昼間ですが、かなり多くの人で溢れていますので、自転車を降りて進みます。訪日観光客の人もけっこういるようです。どのような理由でこの地を訪れているのかインタビューをしたいところですが、とても自転車を持ったまま立ち止まれるような状況でもなく、それはまたの機会としましょう。


中野も新宿と同じように、少し進むと景色が一変します。アーケード街を抜けると、小綺麗なエリアが広がっているところです。

中野四季の森公園。警察大学校、警視庁警察学校として使用されていた土地が再開発で広々とした公園に変わっているようです。危うく見落としてしまうところでしたが、ここは自転車走行禁止です。オープンテラスのカフェも広がり、優雅な雰囲気が広がっています。

中野の次は高円寺。実は、高円寺には訪れたいところがあったのです。その名も気象神社。天気予報を司る神様が祀られているという珍しい神社です。サイクリストとしては自分が走る時は暑すぎず、寒すぎず、程よい風に吹かれながら、天気の良い日にサイクリングをしたいものです。なんと、自分勝手だとは思いますが、そのようなわがままな要望も聞いてくれるのでしょうか。

気象神社にて「サイクリング中に雨が降らないように!」と祈りました。

さて、無事にお参りもすませて、高円寺の街を彷徨います。いくつかある商店街の中でも目をつけたのが純情商店街。細い路地にいくつものお店が軒を連ねています。焼き鳥屋さん、オシャレカフェ、アパレル店、電気屋さん、なんだか全てのお店が揃うような商店街。こういう界隈は珍しいと思います。

純情商店街の入口にて。

ふらりと立ち寄ったのが、地元で愛されて40年以上というパン屋さん。値段が安すぎて困ってしまいます。どうやって利益をあげているのか心配になるような価格。昭和50年代から変わらず使っていると思われる精算機の音。カレーパン、チョコパン、揚げパンというお馴染みのラインアップ。私が小学生だったころに通っていたパン屋さんを彷彿させます。どこの商店街にもあったようなパン屋さん、懐かしいですね。

購入したパンを近くの公園でいただきながら、休息。

次の街を目指します。次は阿佐ヶ谷。時間も遅くなってきたようで、路地裏では学校帰りの小学生が横になって道に広がっています。ランドセルを振り回している男子。と思うといきなりUターンしてくるので、自転車とぶつからないか細心の注意を払って進みます。小学生の下校時間に合わせて、町内会の方でしょうか、交差点に立って旗を振ってくれています。皆さんの暮らす街にはこのような光景は残っているでしょうか。

今回の探検で何度も目にした住宅街、暗渠のような側道、歴史を感じるマンションと通り抜けていきます。中にはスタジオジブリのトトロが登場しそうな住宅もあり、写真にしっかりと収めます(Aさんの庭)。こうして寄り道ばかりしているので、なかなか前に進めず。


どうやら、次の阿佐ヶ谷が探検のゴールとなりそうです。その先にある荻窪、吉祥寺、三鷹(順番合っていますよね?)も探検したいところですが、時間切れです。地図もなく彷徨うのはかなり疲れるということを痛感。楽しいですが、あまり長距離をいかないでも、かなりの疲労感を感じます。

ゴールが定まったところで、スマホを取り出して地図アプリで場所を確認したことを報告します。探検家がコンパスに頼るのと同じであるとお許しあれ。

駅前には大きな神社、阿佐ヶ谷神明宮が鎮座しています。今回の探検が無事に終わったことを感謝し、お詣りします。


今回巡ったポイントと走行ルートです。知らない土地を自転車でゆっくりと走りながら探検し、走行距離はおおよそ12kmでした。


 

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今回の「ローカル駅からはじめる自転車散歩」は如何でしたか?日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。今回の記事に登場したDAHON K9Xは、Kシリーズの中でも走行安定性が高められたモデルで街中の探検にぴったりの折り畳み自転車。DAHONでは様々な折り畳み自転車をラインナップしていますので、走行機能と折り畳み機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあったモデルを選んでください。

DAHONでは様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載しています。更新時にはFacebookXInstagramでお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。

 

*使用車体
 DAHON / K9X(オリーブ)

*この記事で紹介している情報は、2024年6月時点の取材に基づいています。
*歩行者のいるところや細い路地などは押し歩きや迂回するなど、マナー優先でサイクリングを楽しみましょう。