ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事。今回は、都会のど真ん中である東京メトロ銀座線日本橋駅からスタートし、旧東海道の面影を探します。
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今回の自転車散歩のスタートは日本橋。江戸時代に整備された五街道の出発地点として知られています。日本道路元標が今も道の真ん中にあり、「東京までoo km」という道路標識はここを基準にしています。江戸時代までさかのぼれば、五街道(東海道、中山道、甲州道中、日光道中、奥州道中)はここが起点となっていたのです。
「日本橋ってローカルな駅?」というツッコミがあるかもしれませんが、その通りです。都会のど真ん中からスタートするのもお許しください。江戸時代の跡を探しながらの自転車散歩には最適だと思うんですよ。
当時の旅人もここを起点に全国津々浦々まで旅をしたのかと思いを馳せていると、後ろからやってきたサイクリストに声をかけられました。FUJIのアドベンチャーロード「JARI」に乗っていて、重たい荷物もたくさん。フロアポンプまで携えています。彼は東海道を進んで京都を目指すとのこと。まさに令和時代の旧東海道の旅人です。私は京都まで行くわけにはいかないけれど、東海道に沿って、最初の宿場である品川宿までサイクリングを楽しむつもりです。あくまで「ゆるく、自転車散歩」を心がけながらね。
とは言うものの、現代の東海道は交通量が多く、危険がいっぱいです。そこで考えたのは週末の朝早くにサイクリングをすること。この時間なら車も少なく、歩行者もほとんどいないから、自転車での走行がスムーズにできそうです。いざ、出発です。
東海道を進む前に日本橋の北側にある三越へ寄り道をします。歴史的な建物で、重要文化財に指定されています。
まだ開店前で静かな雰囲気ですが、入り口には三越を象徴するライオン像が鎮座しています。このライオンに触ると縁起が良いとのことですよ。 |
三越といえば、ライバルは高島屋。こちらは日本橋の南側に位置しています。高島屋も重要文化財の建物で、記念撮影にぴったりです。
高島屋を過ぎて、しばらく進むと京橋に到着。今は銀座通りの入り口に位置していますが、かつてはここに橋がかかっていました。欄干と地名にその名残をとどめています。
今日もこれから買い物客で賑わうことでしょう。作戦成功。沿道のお店が開店すると、多くの人と車でごった返してしまいます。休日の朝だけに道も空いていて、気持ちよく走ることができます。「ゆっくり起きた休日」というコンセプトのローカル駅からはじめる自転車散歩ですが、今日は「早起きは三文の徳」です。
早朝の銀座通りを抜けていきます。それにしても空気が澄んでいます。人が少ないのは予想通りでしたが、こんなに気持ちいい空気だとは思わなかったな。秋風に吹かれつつ、銀座通りを走るのがこんなにも心地よいとは。
銀座を抜けて、新橋に到着。ここもその名の通り、昔は橋がかかっていたのです。この辺りは運河が広がっていたのでしょう。でも今はサラリーマンの街として有名ですね。
新橋の欄干跡前にて記念撮影。通りを見ると大型バスが。中国語で会話する声が聞こえてきます。新橋の欄干跡の奥に映るのはドンキホーテ。なるほど、お店が観光地になっているのか。 |
旧東海道はこのまま第一京浜(国道15号)に沿って続きますが、ちょっとだけ側道に寄り道してみます。道を曲がると、汐留エリア。昔は国鉄汐留駅があった場所で、今はオシャレな街に生まれ変わっているらしい。「らしい」というのは今日初めて訪れるのです。その名もイタリア街。
イタリア街というだけあって、イタリアを訪れたかのような雰囲気が広がっていて、東京にいることを忘れさせてくれる場所なはず。石畳の道で、真ん中には彫刻が文化財として保存されている。広場もあったりして、教会の鐘の音がきこえてくる。そういうイタリアを期待して訪れましたが、休日で朝早いせいか逆に街が静かすぎました。イタリアはどこに行ってしまったの?
街の建物もなんとなくイタリア式のように見えます。夜になれば、ライトアップされてまた違った雰囲気になるのでしょうか。 |
路面が石畳なのはイタリアらしいですが、自転車で走るにはアスファルトの方がスムーズです。 |
さらに旧東海道から外れて、大門の交差点で進路を西へ。大門はその名の通り、増上寺の大門に由来しています。
増上寺は徳川家の菩提寺でもあり、だからこそ東京のど真ん中にあるのに広大な土地を占有しています。増上寺の後ろには東京タワーがそびえており、それが青空に映えています。青空と東京タワーの組み合わせは東京の象徴的な光景の一つです。 |
増上寺とプリンスホテルの間の細い路地、これが実は東京タワーの撮影スポット。東京タワーの下の方まで綺麗に見えるのが最高です。 |
芝公園から南にまっすぐ進んでいくと第一京浜(旧東海道)に戻ります。ここは田町エリアで、昼時になると往来の人と車で賑わっています。
このあたり(三田)はかつて薩摩藩の蔵屋敷があった場所で、1868年には幕府代表の勝海舟と薩摩藩の西郷隆盛が話し合いをし、江戸城の無血開城を決めた歴史的な場所です。現代ではビルが立ち並び、どこに記念碑があるのかわからず、ぐるぐると迷子になってしまいました。 |
そのまま、旧東海道というか、第一京浜を進みます。片道3車線(場所によっては4車線)に広がり、江戸時代の面影はどこへやら。面影どころか、いたるところで工事中の光景が広がっています。煙がもくもくと上がり、気がつけば自転車も私も埃まみれ。ちょっと、辟易してしまいます。
高輪に到着すると、歩道には目立つ石垣があります。車のスピードでは見逃してしまいそうな存在で、高輪大木戸跡です。江戸時代、ここに大きな門があり、江戸市中と郊外の境界になっていました。都市開発の過程で、大木戸は失われ、今では車がビュンビュンと通り過ぎる中に石垣だけが残っています。第一京浜の横にあるのに誰にも気づかれずに、ひっそりと佇んでいます。
高輪大木戸跡で写真撮影をしていると、工事現場の警備員に不思議そうな顔をされました。 |
ここで再び寄り道。第一京浜から外れて訪れたのは泉岳寺。赤穂浪士が眠るお寺で、駅名にもなっていることで知っている人も多いでしょう。東京のおもしろいところは、幹線道路は賑やかなのに、一本外れると、閑静な寺院や住宅街が広がっていることです。泉岳寺もその一例。境内はとても静かで、ゆったりとした時間が流れています。赤穂浪士の四十七人が今も安らかに眠っていると感じました。
泉岳寺と反対側にはJR高輪ゲートウェイ駅があります。この駅名が決まったときは物議を醸しましたが、もともと江戸への入口があった場所であり、現代でも羽田空港へ通じる道があることを考えると、非常に良いネーミングだと思うのですが、いかがでしょうか。
訪れた日は残念ながら工事現場に囲まれていて、おしゃれな高輪ゲートウェイ駅を見ることはできませんでした。 |
品川駅を抜け、御殿山を過ぎれば、品川宿へと続きます。品川宿は江戸時代には湾岸沿いにあった品川宿ですが、現代は埋立地が拡がり、当時の面影はほとんどありません。以前、この湾岸沿いを自転車散歩で走りましたので、今回は別方向へ向かいます。
立ち寄ったのは品川神社。800年以上の歴史のある由緒ある神社で、東京十社にも数えられています。
ここには富士塚も残されており、その頂上からの展望は一見の価値があります。
富士塚頂上からの眺めは素晴らしく、品川宿の家屋が連なり、その先には壮大な江戸湾が広がっていたのでしょう。現代では京急線の線路の向こうには東京の海上発展をみることができる光景です。
旧東海道の日本橋から品川は第一京浜となり、完全に都会の一部となっています。旧東海道の面影は、残念ながら、ほぼ見つけることはできません。それでも、一部の史跡や富士塚からの眺めで江戸時代に思いを馳せてみました。令和時代に潜む江戸時代の面影を探す旅も悪くない。あのアドベンチャーロードに乗った旅人のように旧道を巡ってみようか、と考えながら、輪行して帰宅しました。
今回巡ったポイントと走行ルートです。旧東海道沿いに昔の面影を探しながら第一京浜を走った、約10.5kmの自転車散歩でした。
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今回の「ローカル駅からはじめる自転車散歩」は如何でしたか?日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。今回の記事に登場した折り畳み自転車はDAHON K3です。この車種はとても軽い車体ですので、輪行するのも容易です。いつか自転車を抱えて、東海道線の別の駅から走って、他の宿場や旧道を見てみたいと思います。DAHONでは様々な折り畳み自転車をラインナップしていますので、走行機能と折り畳み機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあったモデルを選んでください。
DAHONでは様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載しています。更新時にはFacebookやX(旧Twitter)、Instagramでお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。
*使用車体
DAHON / K3(Color:ガンメタル×ブラック)
*この記事で紹介している情報は、2023年11月時点の取材に基づいています。
*自転車に乗車する際はヘルメットを着用するとともに、歩行者のいるところや細い路地などは押し歩きや迂回するなど、マナー優先でサイクリングを楽しみましょう。