ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事。今回はJR根岸線洋光台駅を起点に、横浜の中心部を流れる大岡川の源流から河口までの川沿いを、寄り道しながら走ってみたいと思います。
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ナイル川や黄河の最初の一滴を追い求めて山を越え河を越え道なき道を突き進む。そんな大冒険をしてみたいけれども、現実は厳しく、お金も時間も勇気もない(涙)。なんにもない自分だけど、目の前には愛するDAHONの自転車がある。コイツといっしょならナイル川は無理だけど、近くの川の源流探検ぐらいはできるかもしれない!よーし、天気もいいし、いっちょう小さな大冒険に行ってみるかーっ!というわけで、今回は横浜の中心部を流れる大岡川に狙いを定めて、源流探検および河口探訪の旅に出かけてみたいと思います。
そんなこんなで、4月中旬のある晴れた午後、やってきたのは大岡川源流域にもっとも近い駅、JR根岸線の洋光台駅。ここからまずは大岡川の源流を目指し、その後、川沿いに河口まで走ってみようという計画です。
駅前の花壇にたくさんの花が咲いていました。今回、源流探検のパートナーにチョイスしたのはDAHON Horize Discの限定モデル。極太タイヤ装着の悪路走行が得意なアウトドアモデルです。 |
洋光台の駅前には「団地の未来プロジェクト」で脚光を浴びている洋光台中央団地が広がります。団地の未来プロジェクトは、建築家の隈研吾さんとクリエイターの佐藤可士和さんによる古い団地を再生しようという試みです。
洋光台中央団地が完成したのは1970年(昭和45年)なのですが、不思議なことに今見ても少しSF的というか、近未来的な雰囲気があります。平日の昼間で閑散としているせいでしょうか。 |
洋光台駅から源流域までは川沿いを走らず、Googleマップを頼りに最短距離で向かいます。下の写真は源流域へ向かう道すがら、初めて出会った本日の主役「大岡川」。延長14キロの二級河川です。(塩木戸橋から撮影)
源流域を目指してしばらく走ると、横浜市内とは思えない景色が現れました。正面の小高い山は標高156メートルの円海山。その周囲に広がる氷取沢市民の森の中に大岡川の源流域はあります。
氷取沢市民の森の入口。舗装路は途切れ、この先は鬱蒼とした森の雰囲気。行くか戻るか一瞬躊躇したものの、小さな冒険心を奮い立たせて進みます。
森の中を漕ぎ進みます。サビていた冒険心が少しずつよみがえってくるような気がします。
森の中を少し進むと、大岡川に突き当たりました。川に沿って上流を目指します。
自転車はここまで。ここから先は歩いて源流域を目指します。
歩き始めてすぐに護岸壁がなくなりました。こういう状態の川岸のことを自然河岸というそうです。頭の上でうるさいぐらいにウグイスが鳴いています。
大岡川に沿って遊歩道が整備されています。川幅はどんどん狭くなっていきます。
歩けば歩いた分だけ川幅が狭くなる大岡川。もはや川ではなく湿った溝というかんじです。
歩き始めて約10分、思いのほか早く大岡川の源流域に到着。周囲を見渡すと幾筋もの涸れ沢がありました。大岡川の最初の一滴を見たいと思っていましたが、本当の川の始まりはこういう感じなんだなと納得し、今度は14キロ先の河口を目指したいと思います。
源流域から100メートルほど下ったところにある大岡川に架かる最初の橋。
橋の下を流れる生まれたての大岡川。14キロでどこまで育つか見届けてみたいと思います。
生れたばかりの大岡川は氷取沢市民の森の中でそれなりのサイズに成長し、市民の森を出たあたりで護岸壁のあるよく見るタイプの川に変貌し、横浜港に向かって流れていきます。下の写真は源流から1.5キロ地点の大岡川です。(氷取沢橋から撮影)
下流へ向かって走る途中、湧き水を発見。帰宅後に調べたら「いっぺい水」という名前の湧き水でした。雨水はもちろん、こうした湧き水を集めて川は成長していくのでしょう。
源流から6キロ地点の大岡川。このあたりまでアユが上ってくるそうで、遡上を助けるための魚道が設置されています。(日下橋から撮影)
源流から6.2キロ。大岡川分水路の取水庭に到着。昭和30年代以降、上流域の宅地化が急激に進み、その結果、大雨や台風時に大岡川はよく浸水被害を出したそうです。大岡川分水路は浸水被害を防ぐために作られた施設で、増水時に川の水全量を遮断し、巨大な地中トンネルを通して3.6キロ先の根岸湾に放流します。
ぽっかりと口を開けた分水路の入口。家どころか小さなアパートぐらいならすっぽり入る大きさです。
大岡川分水路から走ること5分。大岡川の川沿いにある横浜刑務所に到着。刑務所のすぐ隣に一度行ってみたかったところがあるので寄り道します。
寄り道の先は横浜刑務所作業製品展示場。受刑者の方々が作る刑務作業品の展示販売所です。
職員さんに確認したところ、建物の撮影はNGですが、展示場内の撮影はOKでした。 |
横浜刑務所の名物(刑務作業品)は乾麺だそうです。
家具やおもちゃ、衣類など、他の刑務所の刑務作業品も販売されています。個人的にカッコいいなと思ったのは、函館刑務所の獄マークの雑貨。下の写真は腰袋です。
思わず買ってしまった函館刑務所製の文庫本カバー。税込660円。
刑務所のすぐ近くに差入れ屋さんがありました。ここで購入すると買った品物を中にいる受刑者に差し入れてくれます。あまりお世話になりたくないお店です。
河口への旅に戻ります。下の写真は源流から7.9キロ地点の大岡川。このあたりは川べりが遊歩道として整備されています。(青木橋から撮影)
川べりで野草を採っているおじさんを発見。「何採れるんですか?」と尋ねたら「セリ!」という大きな声が返ってきました。
ちなみにセリは春の七草のひとつです。 |
源流から約11.5キロ、このあたりの川沿いは大岡川プロムナードという横浜有数の桜の名所です。2週間早くに走っていれば満開の桜の下のポタリングになっていました。ところで、写真真ん中あたりの川の上をよーく見てください。なにやら人影が…。(井土ヶ谷橋から撮影)
近くに行ってみると、横浜商業高校の女子ボート部の部員たちが漕艇の練習をしているところでした。ボートの練習ができるくらいの川に育った大岡川に感慨ひとしおです。
横浜商業高校の近くに大原隧道という、映画やPVのロケ地として有名な場所があるので、少し寄り道したいと思います。下の写真がその大原隧道。馬蹄型のトンネル坑門が印象的な全長254メートルの歩行者・自転車専用道路です。
1928年(昭和3年)竣工。土木学会選奨土木遺産に選定されています。 |
トンネル内部の様子。心霊スポット的な雰囲気ですが、登下校の子供たちが行き交う普通の生活道路として使われています。とはいえ夜間の一人歩きは相当怖いと思います。
大岡川に戻ってきました。正面に横浜みなとみらいエリアのシンボルともいえる横浜ランドマークタワーが見えてきました。川の右側(南側)のエリアは伊勢佐木町。青江三奈さんの歌う伊勢佐木町ブルースで有名な歓楽街です。(旭橋から撮影)
少し横道に逸れて、にぎやかな伊勢佐木町界隈をゆっくりポタリングしていると、商店街の入口に伊勢佐木町ブルースの歌碑を発見。ボタンを押すと大音量で伊勢佐木町ブルースが流れてびっくりしました。
青江三奈さんが描かれた大きな看板の前で記念撮影。
シネマ・ジャック&ベティ。横浜のコアな映画ファンが集う名画座も伊勢佐木町にあります。
再び大岡川に戻ってきました。下の写真の川に沿って湾曲した建物は野毛都橋商店街ビル。60件ほどのスナック、パブ、バー、小料理屋さんがひしめき合う昭和ムード満点の建物です。2階店舗の入口は大岡川に突き出すように架けられた通路にあり、1階店舗の入口は反対の道路側にあります。
昭和39年の東京オリンピックの際に、このあたりの道路上で商売していた露天商の方々を収容するために建てたのが、野毛都橋商店街ビルのルーツだそうです。 |
川の反対側(道路側)に回り込んでみました。いい味出してます。夜が更けてネオンが灯ったところを見てみたくなりました。
野毛都橋商店街ビルを後にして、河口を目指します。河口まであと少しです。
大岡川の上を横切るヨコハマエアキャビン。2021年に開通した観光用都市型ロープウェイです。(北仲橋から撮影)
鉄道の廃線跡を利用した遊歩道「汽車道」と大岡川。遠くに見えるのは横浜コスモワールドの大観覧車「コスモクロック21」。こうして見ていくと横浜の観光名所の多くが大岡川沿いにあることがわかります。
そしてようやく河口に到着!正面に見える女神橋は、大岡川のもっとも海側に架かる橋です。
女神橋は人道橋なので自転車で走れません。残念。 |
振り返ると横浜みなとみらい地区のど真ん中を滔々と流れる大岡川。すっかり夕暮れです。
女神橋のたもとまで行ってみました。正面に横浜港が広がります。
女神橋を背景に本日のパートナーDAHON Horize Discを撮影。OLD DAHONのロゴがステキな限定モデルです。
当初の予定では、河口にほど近い横浜市営地下鉄のみなとみらい駅から帰路につく予定でしたが、ネオンが灯った状態の野毛都橋商店街ビルを見てみたくて、伊勢佐木町の方まで引き返しました。まだ少し時間が早かったようで、ネオンの点灯率は50%ほどでした。
野毛都橋商店街ビルに近い横浜市営地下鉄伊勢佐木長者町駅に到着。ささっと自転車を折り畳んで帰ります。あー疲れた。(でも楽しかった!)
今回巡ったポイントと走行ルートです。約27kmのサイクリングでした。
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今回の「ローカル駅からはじめる自転車散歩」は如何でしたか?日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。
今回利用したDAHON Horize Discは極太タイヤを履いた悪路走破が得意な折り畳み自転車。気合と体力と時間さえあれば、信濃川や利根川の源流探検をすることも可能です。皆さんもDAHONの折り畳み自転車(フォールディングバイク)に乗って、近所の川の源流探検、もしくは河口探訪の旅はいかがでしょうか。
DAHONでは様々な折り畳み自転車をラインナップしていますので、走行機能と折り畳み機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあったモデルを選んでください。
DAHONでは様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載しています。更新時にはFacebookやTwitterでお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。また「ローカル駅からはじめる自転車散歩」のInstagramアカウントもぜひチェックしてみてください。
*使用車体
DAHON /Horize Disc限定モデル(Color:レイヤーブラウン)
*この記事で紹介している情報は、2023年4月時点の取材に基づいています。
*歩行者のいるところや細い路地などは押し歩きや迂回するなど、マナー優先でサイクリングを楽しみましょう。