2022年12月25日日曜日

ローカル駅からはじめる自転車散歩【東武鉄道 野田線 野田市駅】

 ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事。今回は、千葉県の東武野田線を利用して、野田市駅からスタートします。


 

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千葉県野田市といえば、醤油です。おそらく、ほぼ全ての千葉県北西部で育った子どもたちが、野田醤油工場見学をしたことがあるでしょう。野田市に辿り着けば、醤油工場がたくさんあって、発酵の香りが街中に満ちている。その香りを嗅げば、幼少期の社会科見学を思い出すことでしょう。

野田市内を走れば、嫌が上にもあの大豆が発酵した香りに満たされ、昔の社会科見学を思い出すに違いないと期待をして駅を降ります。

公共交通機関を利用して自転車を運ぶことを輪行(りんこう)といいます。サイクリングや旅行の行程の一部を自走せずに鉄道、船、飛行機、バスなどを利用するもので、遠くへ移動したり、時間を短縮することができます。

東武野田線は数年前から東武アーバンパークラインという愛称が設定され車内アナウンスでも利用されていますが、地元民にはまだ野田線という表現に愛着があります。

駅を降りてみると、駅前再開発の真っ只中。駅が高架になり、新しい街に変貌を遂げようとしています。醤油の香りに包まれる……と思っていたのですが、まったく発酵の香りがしません。今日は休日で工場が稼働していないからでしょうか。

しばらく駅の周辺、工場らしいところをグルグルと走りながら、発酵の香りを探します。麻薬犬のように鼻をきかせて走り回りますが、期待していた香りを感じることはできず。幼い記憶とちょっと違うことが残念です。

醤油工場の看板はあるのですが、それらしい香りはありませんでした。

醤油の香りを求めながら走っていると見つけたのが、櫻木神社。早朝であるにもかかわらず、境内は七五三の参拝者で賑わいを見せています。いつもは着慣れない和服姿の子供たち、家族全員での記念写真をしている人たちをかき分けながら、お参りをし、今日の小旅行の無事を祈ります。


大迫力の鳥居。写真に収まりきらないほど。住宅街に聳え立つような鳥居が登場し、驚きました。周りの家並木と全く違う大鳥居で、土肝を抜かれてしまいました。

櫻木神社からちょっと走れば、江戸川サイクリングロードです。サイクリングロード沿いに寄り道してみたいと思っていたベーカリーがあったのですが、あいにくの休業日。しっかりリサーチしておけばよかったと思うものの、こういうトラブルも旅行にはつきものです。

今日の自転車はSpeed RBで走行性能もバッチリ。せっかく、江戸川河川敷までやってきたので、江戸川サイクリングロードを北上することに。自転車散歩じゃない?たまには、ロードバイクに乗る人たちと併走してもいいでしょう。

秋晴れに恵まれたサイクリングロード、散歩をされている方もたくさんいらっしゃいましたので、気をつけて走行しました。

50km余り走った気がして、ちょっと疲労を感じてきます。しかし、実際は10kmほどしか進んでいません。50kmと感じてしまうのも、朝からあまり食事をせずにここまで走ってきたからでしょう。最初は、ベーカリーで買ったものを江戸川河川敷で食べる計画だったのです。

そこで、サイクリングロードを外れて、『せんべいや喜八堂』を訪れることにします。暖かいお茶とみたらし団子、焼きおにぎり、あんみつを堪能したところで、すっかりと体力回復です。

『せんべえいや喜八堂』は1927年から続く老舗で、東京駅構内にも支店をもつようなお店です。千葉県野田市にあるお店が現在の本店です。


もちろん素晴らしいのはお店の雰囲気や食べ物だけではありません。店員さんからの「お水が必要ならどうぞ汲んでいってください」という心温まるお声がけもあり。

お茶とみたらし団子。お茶の暖かさとみたらし団子の甘さが体をいやしてくれます。

喜八堂の煎餅は厳選された千葉県米が使われています。そのお米でつくった焼きおにぎり。ふんわりとした食感で満たされました。

最後はあんみつ。ちびまるこちゃんのアニメに登場しそうなレトロな盛り付けです。

レトロと感じさせるのは休息所の間取りにあるのでしょう。床が土間でできているうえに、煎餅を焼く香りが漂っている空間がなんともいえない情緒です。まったりと休みながら、周辺地図をみていると、NODIZEというサイクリストの補給所があるようです。これは見逃せません。


NODIZEは幹線道路から一本路地に入ったところにあります。2022年2月にオープンしたばかりのサイクリストのための休息所です。もっとも畑の真ん中にありますので、公共交通機関では訪れづらい場所かもしれません。自転車向きの立地です。施設内にはドリンク販売だけでなく、休息できるソファ、キッチンカーでのカレー提供などもあります。明るい店長さんがお出迎えしてくれ、カレーを堪能しながらしばし談笑。NODIZEに対する熱い想いを聞いていると、わくわくしてきます。

店員さんがもう一人……と思ったら、なんと常連客の方、そういえば、私が店長さんと話をしているときも、次から次へとサイクリストがあいさつに訪れます。どうやら江戸川サイクリングロード北部で愛されている施設のようです。利用者に愛されてこその休息施設。これからの発展が楽しみです。

さらに北上。ここまできたら、江戸川サイクリングロードの終点として有名な関宿城博物館を目指します。しかし、サイクリングロードではなく、一般道を北上しています。





追分け六地蔵。

一般道を走っていて気がつくのは、どことなく旧道の雰囲気が漂うこと。通り沿いには神社が多く、ところどころに松並木。これは絶対に旧道に違いありません。何か決定的な決め手になるものはないかとあたりを見渡しながら、走っていると、ついに発見。それが次の写真にある解説文です。

決定的な解説文を発見!

この道は日光街道のバイパスとして利用されていた日光東往還。現在の地名でいえば、千葉県松戸市から関宿を抜けて、栃木県下野市石橋あたりで日光街道と合流する82km相当の街道です。江戸時代の人たちはこの道を利用して参勤交代を行なっていたのでしょう。

令和の私は、街道発見の満足感に浸りながらペダルを回し続けます。いよいよ関宿城。見渡す限りの平地に一際そびえ立っている建物はとても目立ちます。関東平野の中に、ぽつんと立っている城郭は迫力十分です。

関宿城で記念撮影。天守閣にみえる建物は関宿城博物館で、実際の城郭はちょっと離れた位置にあったそうです。

見渡す限りの関東平野。

空腹で倒れそうでしたので、お土産に購入していた喜八堂の煎餅をバリボリと食べてしまいました。しかも立て続けに3枚も。

煎餅を食べながら、ゴール地点を考えます。走った道を戻るのではなく、違った景色をみたいです。そこで、進路を西に取り、東武線栗橋駅を目指します。



途中にあった公園は権現堂堤。ここは桜並木と菜の花で有名な景勝地です。今回は秋だったので、どちらも咲いていませんでしたが、それでも、広い敷地を歩きながら、ときに自転車を止めて目を閉じて、満開の桜をイメージしました。いつか再訪問したい場所です。

そのまま、ふらふらと北上していくと、栗橋駅に近づきます。正確に言うと栗橋宿かもしれません。途中から気がついたのですが、私が走っていた道は旧日光街道です。現在の日光街道は国道4号としてトラックの行き交う慌ただしい道ですが、旧道は落ち着いています。ゆっくりと流れる時間を十二分に味わえるリラックスサイクリング。

よく見れば日光街道と筑波街道の分岐点を示す碑がありました。

逆光の光を遮りながら、旧日光街道を撮影しました。江戸時代の人も畑の景色をみながら旅をしたのでしょう。

栗橋が宿場町であったことを示すために、目抜き通りには旗がたなびいていました。

 

今回巡ったポイントと走行ルートです。実際に走行した距離は約60kmでした。今回のように、自転車散歩のスタートとゴールを異なる駅にすればコースの自由度はさらに広がります。自転車を利用して少し足を延ばせば、新しい発見がたくさんあります。いきなり輪行ではなくご自宅や最寄駅から自転車散歩を始めてみるのも、いいかもしれません。


 

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今回の「ローカル駅からはじめる自転車散歩」は如何でしたか?日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。スマホナビに頼るのではなく、街の雰囲気を感じながら、感性の赴くままに走っていき、疲れたところで立ち止まる、そういうサイクリングは折り畳み自転車で行える至福の時間のひとつかもしれません。今回のように、50km近く走るのに、大きめのタイヤとドロップハンドルを備えるSpeed RBはピッタリの車体です。特に関東平野が広がるエリアは坂道も少なく、どこまでも走っていけそうです。DAHONでは様々な折り畳み自転車(フォールディングバイク)をラインナップしていますが、走行機能と折りたたみ機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあった製品を選んでください。

DAHONでは様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載しています。更新時にはFacebookTwitterでお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。また「ローカル駅からはじめる自転車散歩」のInstagramアカウントもぜひチェックしてみてください。これまでの記事一覧は、こちらでご覧いただけます。

 

*使用車体
 DAHON / Speed RB(Color:メタル)2023年モデル

*この記事で紹介している情報は、2022年11月時点の取材に基づいています。
*歩行者のいるところや細い路地などは押し歩きや迂回するなど、マナー優先でサイクリングを楽しみましょう。