2022年10月3日月曜日

ローカル駅からはじめる自転車散歩【JR北海道 函館本線 大沼公園駅】

 ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事。今回は、いつもの都心部を抜け出し北海道へ。函館本線の大沼公園駅からスタートします。


 

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JR函館駅から函館本線で40分ほど。北海道南部にある大沼公園駅は1日の乗降客数は250人程度の単線駅です。しかしその歴史は古く、前進の臨時乗降場が設置されたのは1907年(明治40年)まで遡ります。


かわいらしい駅舎の大沼公園駅。みどりの窓口やコインロッカーもあります。

撮影の日、地元の方にお話を聞くことができました。

曰く、近年は電車の本数が減ったり、公園周辺地域への公的補助がなくなったりと、町が衰退するようなことばかり。それでもこの辺りはインバウンド需要で賑わっていたが、コロナ禍の打撃でいくつもの店が廃業してしまったとのこと。団体客を受け入れていた駅前の大きなレストランも、コロナ禍以降は休業中だそうです。

また、8月末にも長万部ー小樽間の廃止の方針が報じられましたが、北海道の駅がなくなるスピードにはすさまじいものがあります。駅逓所が鉄道に代わり、鉄道がバスになり、そのバス路線も廃止になり始めている北海道の交通の現状は、日本の山なりの成長曲線をはっきり示しています。

大沼にある山川牧場のミルクを使ったソフトクリーム。駅前のホテルなどでもいただくことができます。

この日走るのは大沼国定公園エリアにある、大沼一周サイクリングコース。駅前には観光客を狙ったレンタサイクル店がいくつかありますが、自分のロードバイクや小径車で走る人も複数見かけました。平坦なルートは一周14kmと距離も短めなので、何周もする人も多いようです。


5分ほどで駅前の賑わいを抜け、緑いっぱいの道に入ります。地面に落ちているのは……クルミ?


思わず「本当に?」と思ってしまう「通学路」の立て札。うらやましくもありますが。

ちょこちょこと駐輪場が設置されていて、近くにビュースポットがあることを示してくれています。

さっそく自転車を停めて、整備された道から沼のほうへ下ってみます。

すると目の前に広がる、大沼と北海道駒ヶ岳の絶景……!

語彙力を奪う眺め。わぁ~!

もともとは富士山のような整った山型(コニーデ型というらしい)だった駒ヶ岳ですが、度重なる大噴火で山頂が吹き飛ばされていまの形になったとのこと。噴火によって流れ出た泥流が周囲の川をせき止め、大沼・小沼・じゅんさい沼の3つの湖を作ったとされています。いまも活動期の活火山であることは、鋭く尖った山体からもなんとなく実感できます。

波打ち際にボトルが。お手紙でも入っているかと近づいてみると……

みんな大好きファンタグレープでした。ゴミは持ち帰りましょう。


クルマやオートバイでは聞こえない鳥のさえずりやセミの声を聞き、緑の香りや森に漂う動物のにおいを嗅ぎ、ゆっくり走っては何度でもペダルを止めて寄り道をする。これは確かにサイクリングにうってつけで、レンタサイクルが人気なのも頷けます。

そんなシチュエーションにあって、今回の相棒であるDAHON K3のさらなる圧倒的勝利を感じました。飛行機やバス、電車を乗り継ぐ輪行も苦にならない軽さと、カジュアル&ワイドな3段ギア。緩やかな坂もありつつぐんぐん漕ぎたい平坦路も多いので、道に応じてギアを変えられるのは心強い限りです。また、路面は少し荒れていたりいろんなものが落ちていたりするので、タイヤが細すぎないほうが安心して走れます。

大沼の湖底は土砂などの堆積物。風でかき混ぜられると濁りやすく、その分、空や山がくっきりと映るのだそう。

再び駐輪場を見つけたので、K3をスタンドに預けて木道を進んでみます。

木道に黄色い花びらが散っていて、木漏れ日と相まってとてもメルヘンな雰囲気です。



現場には写真以上の鬱蒼感があり、虫嫌いの方にはややオススメしづらいのも事実。山などで「耳元で不意のブーン」に遭遇することがありますが、あれで悲鳴を上げてしまうタイプの方はつらいかもしれません。

木道を彩るのはバレンギクの仲間でしょうか、黄色いハーブ系の花の周りでハチが忙しく働いていました。

木道の先に視界が開けると、再び駒ヶ岳が。今日はずっと、右に左に現れる駒ヶ岳とともに走る行程です。

踏切で止まってみると、線路の向こうにも「THE 北海道」な景色が広がっていました。

踏切の名前にもなっている「流山温泉」は2015年に廃業、同名の駅も2022年の3月に廃止となっています。


のぼりと木製の鳥居を見つけて立ち寄ったのは「駒ヶ岳神社」。噴火を繰り返す駒ヶ岳を鎮めるために1914年(大正3年)に建てられたもので、現在の場所には1973年に移されてきたそうです。

特筆すべきは境内にある大きな岩山です。

複雑な形をした巨大な岩。周囲にはロープが張られ、立ち入り禁止になっています。

山体崩壊を伴う大噴火により、大沼一帯は、崩落した火山体がなだれのように流れる「岩屑(がんせつ)なだれ」に襲われました。この岩屑なだれで残ったものが「岩屑なだれ堆積物」で、この辺りでは「流れ山」と呼ばれています。先ほど通過した踏切でも見たとおり、地名にも残っているのですね。

この神社の大きな岩もそうした噴火で生まれたもの。現地の看板によれば、石と火山灰のガラス質が溶け合った「溶結凝灰石」で、1641年(寛永17年)の噴火によるものだと伝わっています。

以前は岩石の下をくぐったり周囲の木道を歩いたりもできたようですが、2018年の落石によって現在は立ち入り禁止に。復旧の予定はなさそうで、自然環境を観光資源として整備し続けることの難しさも感じます。

しかし筆者と入れ違いに、地元の方らしき男性がお参りに来ている姿を目にしました。仕事の途中に立ち寄ったような様子もあり、地元で愛され続けているなら大丈夫、となんだか安心です。

あ、キツネが出るぞの標識!

鼻歌を歌いながら走っていると、道の脇のスペースに、地元ナンバーらしき車が複数停まっているのがふと目に留まりました。この辺り、何か面白いものがあるのかも……。ガードレールに自転車を預けて、車道から伸びる細い道を進んでみることにしました。

竹のような植物が茂っています。詳しくないのですがトクサってこれのことでしょうか。この先に一体何が――?

まぶしい!

ぽっかりと森が開けた先には、ゴムタイヤで立派な浮き桟橋が組まれていました。「うわ~!夢みたい!」と心の中ではしゃぎながらそっと足を踏み出すと、浮き桟橋が少しプカプカします。


釣り人のラジオからは軽妙なおしゃべりが聞こえていて、それが周囲の静けさをより強調しています。遠くに浮かぶ日傘を差した釣りボートも、なんだか西洋絵画の貴婦人のように見える……。あまりの穏やかな光景にちょっとクラクラしてしまいました。

「何が釣れるんですか?」とそっと声をかけると、釣り人は「ヘラブナとフナ、コイとかが釣れるんです」と教えてくれました。続けて「ヘラブナを狙っているんだけど、なかなか釣れないんだよね」とぽつり。難しいと聞きますもんね、がんばってくださいとお礼を言って先へ進みます。

電車はよく通りますが、その多くが貨物列車と特急です。愛らしい普通電車が見たければ時間を調べて狙うべし。

東西に長い湖の北側を走り、湖西側の函館本線沿いまで戻ってきました。線路と並走する道路は、その東をいま走ってきた大沼に、西側を小沼に挟まれています。


これはじゅんさい……ではなくスイレン。この公園では白のほかにピンクや黄色も見られるとのこと。

大沼公園駅に戻ったら、電車に乗る前にやりたいことがありました。

名物のお菓子をぜひいただいてみたかったのです。

パッケージ。

開けてみるとこんな感じ。小豆あんのほかに胡麻あんも選べます。

駅前には「大沼だんご」を売るお店がいくつかあります。お団子を串に刺さずにみたらしに浮かべているのは、湖面の浮島を模しているのだそう。明治創業のこちらを訪れた際はコロナ対応でテイクアウト販売のみ行っていて、お店の前のベンチでも食べられるようになっていました。

このお菓子、明治時代の北海道を舞台に青年とアイヌの少女が金塊を探して旅をする例の漫画にも登場して、さらに人気を博しているようです。

あんことしょうゆのダブル付けで実食。アイヌ語の「ヒンナヒンナ(おいしい)」を言ってみたくなります。

 

今回巡ったポイントと走行ルートです。約14kmの素敵な時間でした。江戸時代にはすでに遊覧船が走っていたというだけのことはあり、とくに観光地化されている大沼側の公園エリアは、船に乗っておいしいものを食べるだけならハイヒールでも楽しめそうです。公園内には複数ルートの散策路が整備されていますが、自転車通行は禁止なのでご注意を。筆者は自転車を置いて全散策路を制覇しましたが、小沼側の散策路「夕日の道」が自然に還りつつあるのにも一見の価値を感じました。自転車でも徒歩でもいろいろな楽しみ方があり、どのプランを選ぶかによって感じられるものが異なる大沼公園エリア。ぜひ時間をたくさんとって遊びに行ってみてください。お供にはやっぱり、アップライトなポジションで景色を見ながら走れる折りたたみ自転車がオススメです。


 

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今回の「ローカル駅からはじめる自転車散歩」は如何でしたか?日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。今回利用したDAHON K3は、3段変速を装備しながらも本体重量7kg台を実現した14インチコンパクトフォールディングバイクの理想形とも言えるモデルで、輪行に最適な1台です。DAHONでは様々な折り畳み自転車をラインナップしていますので、走行機能と折り畳み機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあったモデルを選んでください。

DAHONでは様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載しています。更新時にはFacebookTwitterでお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。また「ローカル駅からはじめる自転車散歩」のInstagramアカウントもぜひチェックしてみてください。

 

*使用車体
 DAHON / K3(Color:シャンパン
×ブラック)2022年モデル

*この記事で紹介している情報は、2022年9月時点の取材に基づいています。
*歩行者のいるところや細い路地などは押し歩きや迂回するなど、マナー優先でサイクリングを楽しみましょう。