2022年10月19日水曜日

ローカル駅からはじめる自転車散歩【JR北海道 函館本線 森駅】

ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事。今回は、前回の大沼公園駅から同じ函館本線で少し北上した先の森駅からスタートします。


 

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JR函館駅から特急で約45分。前回記事の大沼公園駅から北へ約16kmの森駅は、その名とは裏腹に噴火湾(内浦湾)に面した街です。2022年現在、大沼公園駅とこの森駅の間にあるのは赤井川、駒ヶ岳のふた駅。駒ヶ岳の次にあった東山駅と姫川駅が2017年に廃止されたことから、駒ヶ岳ー森駅間は12km以上ノンストップの行程になっています。

海が見たい――そう思い立ってやってきたのは「森」駅。駅舎の黄色が青空に映えます。


走り出しはやや雲が多め。「サツドラ」の向こうにはセブンイレブンもあります。

ぜひ地図を開いてご確認いただきたいのですが、森駅が位置する森町(もりまち)は、むしろ森を抜けた先にある海の街。なぜ海なのに森なのか――その謎のヒントが、駅を出て早々に出合ったこの立て札にありました。


この川は「オニウシ=木が多い」+「ペッ=川」でオニウシペッだったわけですが、木が多い場所といえば森ですね。北海道の地名はアイヌ語の音に漢字を当てたものも多いですが、ここ森町では音ではなく意味を残して和名をつけたのでしょう。町内には「オニウシ公園」もありました。

北部や外洋に面したエリアでは、厳しい風雪で大きな木が育たない場所もある北海道ですが、ここはそうではなかったようです。森町の公式HPにも、江戸時代からニシン漁などが盛んな「漁業の地」だったと書かれており、湾に抱かれた恵み豊かな土地だったことがうかがえます。

長万部行きの普通電車を撮ることができました。海と空と一両編成、胸がキュンとなります。

駅を背にして、噴火湾を右手に見ながら西へ向かいます。やがて右手に見えてきたのは「鷲ノ木漁港」。ズラリと並んだ昆布が壮観です。Googleマップのクチコミによると「アブラコ」などの魚を目当てに釣り人も訪れるようです。

絶景をバックに、干される昆布も気持ちよさそう。

カラフルなのにどことなく気だるく物憂げなブイ。オブジェのようです。

何らかの加工機械。沖舘鉄工有限会社製、クマタニ式K-3型篭洗機。

かつてはニシン漁が盛んだったこの辺りは、現在はホタテの養殖で知られています。この日走った時間帯は、朝の早い漁師さんたちにはすでにオフの時間だったようで、地元の方に直接お話を聞くことはできませんでした。上の機械は何なのか独力で調べたところ、おそらく養殖ホタテのカゴを洗ってくれるメカであろうと判明しました。そのほかにも貝を傷つけずに洗ったり、穴を開けたりするために、いろいろな専用機器があることがわかりました。ホタテを育てるためにどんな機械が必要で、どれだけの手間がかかっているか、想像したこともなかったと気づきました。ホタテは大好きですが、どこからどんなふうに来たのか、実感するほどによりおいしくいただける気がします。

見たことのない色の消火栓を発見!

潮風の影響もあるのでしょう、だいぶ古びてはいますが、鮮やかな黄色の消火栓を見つけてペダルを止めました。

調べてみると、函館エリアには「函館型三方式地上式消火栓」なるものがあり、独自のレトロな形状で知る人ぞ知る名物になっていることがわかりました。この消火栓は「函館型」とは少し異なりますが、札幌など、北海道ではほかにも黄色い消火栓が設置されている場所があるとのこと。さらに地域によって別の色の消火栓があるようです。

こうした色の最大の理由は、やはり積雪時の視認性でしょう。雪が積もっていても夜間でも見つけやすいよう、スックと立ち上がって自己主張する消火栓たち。マンホールとほぼ同様の存在である関東などとはひと味違います。

漁港に行くとこういうオブジェも見ますね。ガラスのブイ(ビン玉と呼ぶらしい)が綺麗です。

ハードボイルド感すら漂うのは漁師小屋でしょうか。コーヒーの空き缶がずらりと並んでいました。

ダイナミックに干された布団を思わず激写。この布団で寝たら、海鳥になった夢が見られそうです。

物珍しさにシャッターを押しながらゆっくり進むと、海沿いの細い道の突き当たりに、歴史上のビッグネームにまつわるスポットがありました。



1868年(明治元年)、榎本武揚や土方歳三らが、ここから北海道に上陸したという場所です。現地の解説によると当時のこの地(鷲ノ木村)は茅部街道の要所で、旧幕府軍が箱館をめざす足がかりにされたようです。

上陸したのは旧暦10月20日とあるので、現代でいえばすでに12月。「暴風雪」というのも頷けます。季節の違いだけでなく、いましも箱館戦争へと突入していくという状況もあり、まったく違う景色が見えていたんだろうなと想像しました。

榎本軍の人たちも、雪の舞う中、この砂浜に降り立ったのでしょうか。



線路を越えて、走ってきた道を戻ります。


道路のすぐ横を線路が走っており、そのすぐ向こうには海。線路は目の前の駒ヶ岳方向に向かうと函館方面へ、山から遠ざかると長万部を経由して小樽方面へ続きます。この企画のタイトルでいう「ローカル駅」は、「地元っぽさ」を意図したフレーズです。対してこの函館本線の長万部ー小樽間は(「ローカル線」の定義には諸説あるものの)、かなり明確にローカル線とされている区間。すでに廃線が濃厚になっており、そうなれば北海道の輪行のハードルがまた大きく上がるでしょう。

ご当地マンホールの蓋。駒ヶ岳と森と共に、町の花であるサクラが描かれています。

街なかを走っていると繁華街と思われるエリアに入りました。飲み屋さんや喫茶店の建物が集まっているものの、時間帯のせいもあるでしょうが営業しているのかわからないお店も多く、ちょっと寂しい気持ちになりました。かなり寂れていることは否定できませんが、その一角の突き当たりに石碑が建っていました。


石碑には「森桟橋跡」と刻まれています。現地の看板によると、ここには1873年(明治6年)に全長255mの桟橋(波止場)が築かれ、室蘭へ向かう船に乗る旅人で賑わっていたとのこと。さらに1881年(明治14年)にはこの桟橋から明治天皇が上陸したそうですが、現在は朽ち果てた橋脚材と「明治天皇上陸記念碑」のみが残っていると記されています。

フェンスの向こうを背伸びして覗くと……。

なんと海の中にまた石碑が。あれが「明治天皇上陸記念碑」のようです。


渡島エリアで営業する信用金庫「おしましんきん」の本店。

メインストリートと思しき道をブラブラしてみます。地図で見るとその名も「大通」とあります。しかしここでもシャッターが下りているお店が多くあり、思わず曜日や時間を心の中で確かめてしまいました。都会から来てこんな風に感じていることが傲慢で横暴な気がして、どう受け止めたらいいか、また心の中で確かめたくなってしまいます。

何らかのキャラクターが描かれたシャッターが、「さかえる」の文字に反して閉ざされているのが切ない。

さて、あっという間にまた駅前に戻ってきました。
駅舎の前で自転車をたたんでいると、来た時には気づかなかった貼り紙を見つけました。

ふむふむ。では30歩進んでみましょう。

あった! 「マーイーカ」とアローラ地方の「ロコン」ゲットだぜ!

ご当地マンホール「ポケふた」のサイトによると、北海道ではきつねポケモンのロコンを中心とした絵柄で蓋が設置されているようです。きつねは北海道のイメージがありますもんね。でもここにマーイーカが描かれていることにも意図を感じます。なぜなら森町には、名物「いかめし」があるから!

駅前にあるのは柴田商店。ほかに阿部商店も人気のようです。お店の佇まいもいい感じ。

行きにお店が営業しているのを確認したので、自転車散歩を終えたところでいかめしを購入して、帰りの電車の中で食べようと決めていました。意気揚々とお店のドアに手をかけようとしたところ――。

やってしまった~!

まさかのいかめし完売。スタート前に買っておくべきだったようです。平日だからといって人気を侮っていました……。

これはぐっと落ち込みますが、迂闊すぎるオチがついてしまってもきっと大丈夫。そのためにまた来たっていいし、いかめしとの間に運命の絆があれば、きっと再びどこかで出合えるはずです。

 

ほら、帰りの空港で阿部商店のいかめしと運命の再会。ありがとう、北の大地の恵み!

 

今回巡ったポイントと走行ルートです。8km足らずのショートトリップでしたが、のどかな海辺の町並みを存分に味わうことができました。気軽に行けない遠方の土地でも、自転車を持ち込むことで時間に縛られずに楽しめました。


 

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今回の「ローカル駅からはじめる自転車散歩」は如何でしたか?日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。今回利用したDAHON K3は、3段変速を装備しながらも本体重量7kg台を実現した14インチコンパクトフォールディングバイクの理想形とも言えるモデルで、輪行に最適な1台です。DAHONでは様々な折り畳み自転車をラインナップしていますので、走行機能と折り畳み機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあったモデルを選んでください。

DAHONでは様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載しています。更新時にはFacebookTwitterでお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。また「ローカル駅からはじめる自転車散歩」のInstagramアカウントもぜひチェックしてみてください。これまでの記事一覧は、こちらでご覧いただけます。

 

*使用車体
 DAHON / K3(Color:シャンパン×ブラック)2022年モデル

*この記事で紹介している情報は、2022年9月時点の取材に基づいています。
*歩行者のいるところや細い路地などは押し歩きや迂回するなど、マナー優先でサイクリングを楽しみましょう。