2022年5月6日金曜日

ローカル駅からはじめる自転車散歩【東武鉄道 伊勢崎線 加須駅】

ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事。今回はうどんがテーマの日帰り旅行。スタートは東武伊勢崎線 加須駅です。


 

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うどんが食べたい!と無性に思うことがありませんか。私はうどん好きですので、結構頻繁に思います。とはいうものの、関東在住の身で、うどん屋巡りのために香川県を訪れるのは遠すぎます。しかし、埼玉県加須市ならば、都内からも1時間ちょっとで訪問することができます。

なぜ、加須市?と疑問に思うかもしれませんが、実は、埼玉県はうどんの生産量が第2位。なかでも、埼玉県加須市はうどんのメッカで駅中心に多くのうどん屋さんが軒を連ねていると耳にしました。「機会があれば、うどん屋さん巡りを」と以前より考えていたのです。そこで、電車を乗り継ぎやってきました。いつも乗り慣れていない電車だからでしょうか。旅情気分が高まってきます。

市民の方には失礼かもしれませんが、加須は「かす」ではなく、「かぞ」と発音します。「何にもないところですよ。」と地元出身の知人からは言われていましたが、本当にそうでしょうか。電車に揺られながら、スマートフォンで現地情報を確認していると、城址あり、利根川あり、銘菓あり、県境ありと、さまざまな情報が集まります。他県の人間からすると、興味津々な観光アイテムばかりで、ますます期待が高まってきます。

東武線に揺られて、2時間弱。加須駅に到着しました。加須駅までは、輪行袋と呼ばれるカバンに自転車を収納して電車で移動してきました。工具無しで誰でもサッと折りたためる折り畳み自転車(フォールディングバイク)なら、気軽に輪行できるので便利です。

公共交通機関を利用して自転車を運ぶことを輪行(りんこう)といいます。サイクリングや旅行の行程の一部を自走せずに鉄道、船、飛行機、バスなどを利用するもので、遠くへ移動したり、時間を短縮することができます。

今回の車体は、Speed Falco。20インチサイズの中でも、451という大きめのホイールを装着しているモデルです。加須市は関東平野のど真ん中といってもよい場所にあり、どこまでも平地が続いています。Speed Falcoは8段変速ということもあり、加須市を気持ちよくサイクリングできそうです。

加須は古くは、中山道と奥州街道を結ぶ宿場街。旧道の雰囲気を感じさせます。

最初に向かったのは、五家宝という銘菓を扱う武蔵屋本店です。県道から道をひとつ外れただけで、静かな川が流れていました。単なる用水路かもしれませんが、旅行客がみれば、そこに魅力を感じてしまいます。

両側に道がある川。いつも見ている川の雰囲気が違うと、時間の流れ方すらも違うように感じました。

武蔵屋本店は、文久3年創業。店内では、いかにも地元販売用という感じのアルミパックに入ったものも売られています。店員さんによれば、これは出来立ての品だそうです。せっかくなので、贈答品のパッケージではなくて、アルミパック入りを購入しました。

本店の天井は一見の価値ありです。模様がひとつひとつ違います。


五家宝とは、餅米を固めて棒状にしたものにきな粉をまぶし、水飴をつけた和菓子。特に、埼玉県北部の銘菓として知られています。

武蔵屋本店の前には立派なお寺が威風堂々と構えていました。ここは不動ヶ岡不動尊 總願寺。関東三大不動に数えられています。休日の朝だからか、人の気配がありません。桜も散っていたので、どこか物寂しさを感じるお寺でした。物思いに耽っていると、お寺を訪れる人が一人。静かにお参りをして去っていきました。


寺の側面には黒門がありました。案内板によると、忍城にある門をここに移転してきた重要文化財だそうです。

五家宝を購入してから、進路は南へ、旧騎西町エリアを目指します。ちょっと走れば、関東平野が一面に広がりました。これだけ平野が続いているのはあまりみることがありません。少なくとも都会暮らしをしていると、全く出会えない景色。電車で1時間ちょっとで、この景色に出会えることに驚きです。車の音が途切れると、もう何も聞こえません。見渡す限りの関東平野が輝いて見えます。日曜日の朝早くに起きてよかった。


農道の真ん中を走っていると、サイクリング用に作られた看板もありました。帰宅後に調べてみると、Kazolingと呼ばれる街おこしを図ったサイクリングロード整備のようです。次回訪れるなら、ルートに従って、走ってみるのも面白いかもしれません。

道をすすむと、昔の宿場町ぽい雰囲気の通りになります。旧騎西町エリアに入ってきたようです。まもなく、騎西城跡と思われる天守閣が見えてきました。

お城についたところで、ふと横を見ると、土塁がありました。なにも考えなければ、単なる土塁。しかし、城跡近くにあるということは、きっと当時の遺構です。このように偶然の出会いがあるのも自転車散歩のよいところです。

それにしても騎西城址の天守閣ではなくて、横にある土塁に注目をしてしまう私は変わり者でしょうか。

ただ、天守閣といってもどことなく新しく、石垣のつくりも近代風。どうやら、完全なレプリカ。むしろ戦国時代に存在した騎西城は平屋で天守閣など存在しなかったそうです。なんちゃって天守閣でちょっとションボリ。

当時の面影を感じさせる土塁。騎西城は戦国時代には北条氏の支城で、幾度となく上杉謙信にも攻め込まれたお城だそうです。

土塁を見学したところで、お腹が減ってきました。朝早くに自宅を出発したので、空腹を感じるのも早いです。お昼前ですが、さっそく1店目のうどん屋さんを訪れます。

しかし、当日は臨時休業日の張り紙が。このお店は製麺所も兼ねている有名店だったので、楽しみにしていたのですが、自分の不運も嘆くしかありません。キャンピングカーの人や、地元のおじさんと思われる人まで、ひっきりなしに客が訪れてきます。そして、張り紙をみては、思い思いのコメントを残して、去っていきます。こういう不定調和も旅らしくて楽しいですね。

臨時休業を告げる看板。

……というほど、私には余裕がありません。空腹で困りました。とりあえず、加須駅まで戻って、開いているうどん屋さんの暖簾をくぐりました。ところが、入った瞬間に「当たりだ」と感じさせる佇まい。落ち着いた色の木でできた家具。品のある客層。感じの良い店員さん。隣の人が食べているサクサク衣のエビ天ぷら。空腹スパイスも重なって、気分が高まります。

注文したのは二色うどん。驚いたのが、わさびがチューブではなかったこと。自分で削って食べるわさびは絶妙の辛さがありました。

通常の手打ちうどんと抹茶がはいった冷麦のセットです。本当はエビ天ぷらも注文したかったのですが、今日はうどん屋巡りなので、ぐっと我慢しました。

腹ごしらえをしたところで、2軒目のうどん屋さんを目指します。すこしサイクリングをしてカロリー消費をしなければ、胃袋に入りませんので、次のお店は隣町にあるお店を目指しました。

線路沿いを進み、東を目指していきます。というのも、行きの車窓から興味深い森林が見えたからです。明らかに人の手入れがあると思われる森林地帯。他の公園とは様子が違います。たどり着いた場所を確認すると、花崎城山公園。ここは花崎城の跡でした。なんとなく、お濠があったことを感じさせる落ち着く場所でした。



花崎城山公園にて。花崎城も北条氏の支城のひとつ。冬場であれば、木々の茂りも少なく、もっとお濠の様子がはっきりと見えるかもしれません。

花崎城山公園を抜けて、しばらく進むとうどん屋さんが見えてきました。名前は「つかさ分店」。分店というくらいですから、本店は加須にあります。こちらの分店も大きな駐車場を構えて車がどんどんと入ってくる大繁盛ぶりでした。店内では家族連れも多く、観光客を相手にしているというよりも、地元の人に愛されているお店のようです。Tシャツ短パン姿で食事をする人や、昼間から美味しそうにビールを飲む人たち、赤ん坊をあやす人など、庶民の生活上にあるお店でした。案内された場所も床の間があり、まるで親戚のおばあちゃんの家の和室に招待されたような間取りに地域密着さを感じます。

注文したのは天ぷら手打ちうどん。庶民的な味で満足。

うどん屋さんを2軒訪れたことで、すっかりお腹いっぱいです。このまま加須駅まで戻ることも少しだけ考えましたが、ここまで来たからにはどうしても訪れたい場所があります。満腹でお昼寝をしたい気持ちを抑えながら、ペダルを回していきます。

今日一番のヒルクライム、埼玉大橋。車道は狭く、歩道の柵も低かったので、無理せずに、自転車を押して進みました。


利根川を越えます。

さらにつづく田園風景。地元ではみられない景色なので、飽きません。

ここでも菜の花が満開でした。

電車がタイミングよく来たので、急いでパシャリ!

はるばるとサイクリングをして到着したのは三県境です。都道府県は数多くありますので、3つの県の境となっているところも多数あります。ただし、多くの三県境は川だったり山中だったりします。しかし、ここの三県境は畑の真ん中にあるという珍しい場所。両手両足を広げると、一度に栃木県、群馬県、埼玉県を跨ぐことができるという大変珍しい場所です。口コミで話題が広がっているのか、人の流れが絶えることなく続いていました。みんなが思い思いに記念写真をしているのを横から眺めます。私も両足を広げて、手をつこうかと思いましたが、恥ずかしすぎるので諦めました。


さらに、栃木県側にはベンチとサイクルラックも用意されていました。そこで、休んでいると、背後から突然、女性に話しかけられました。

「その自転車、格好いいですね。なんという自転車ですか?」

「DAHONという折り畳み自転車です。乗ってみますか?」

「いや、高そうなので、傷つけたら申し訳ないです。走行性能良いんですよね?」

「はい、今日は加須市を走り回っています。」

自転車乗りは話しかけられると、自慢せずにはいられません。あまり押し売りにならないように、あくまでも平静を装いましたが、内心では「よくぞ聞いてくれた!」と大興奮。

さて、本当は加須駅まで戻って、もう1軒うどん屋さんを訪れて舌鼓を打とうかと思いましたが、三県境を見学したら、すでに大満足です。初夏の暑さもあり、疲れましたので、輪行して帰宅することにしました。このように、臨機応変にサイクリングを終了できるのも折り畳み自転車の魅力です。調べてみると、近くに柳生駅がありましたので、そこまでちょっと走って、今回の日帰り旅行は終了です。

 

今回巡ったポイントと走行ルートです。臨時休業のうどん屋さんがあったので実際にはこのルート図よりも余計に走りましたが、30kmほどの自転車散歩でした。


 

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今回の「ローカル駅からはじめる自転車散歩」は如何でしたか?日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。今回利用したDAHON Speed Falcoは8段変速に加えて、折り畳み自転車では大きめのホイールがついています。街なかをあちこち散策するのに加えて、ある程度の距離を走るのにもおすすめのモデルです。また、折り畳み自転車の特性をいかして、今回の旅のように、満足したところで、サイクリングを終了して輪行することもできます。DAHONでは様々な折り畳み自転車をラインナップしていますので、走行機能と折り畳み機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあったモデルを選んでください。

DAHONでは様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載しています。更新時にはFacebookやTwitterでお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。また「ローカル駅からはじめる自転車散歩」のInstagramアカウントもぜひチェックしてみてください。

 

*使用車体
 DAHON / Speed Falco(Color:ピーナッツゴールド)2022年モデル

*この記事で紹介している情報は、2022年4月時点の取材に基づいています。
*歩行者のいるところや細い路地などは押し歩きや迂回するなど、マナー優先でサイクリングを楽しみましょう。