2021年4月27日火曜日

ローカル駅からはじめる自転車散歩【埼玉高速鉄道 浦和美園駅】

 ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事。今回は埼玉スタジアム線、埼玉高速鉄道の終点「浦和美園駅」からスタートします。



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獲得したいのは標高差ではない、ただ心がのびのびするような癒しの時間なのだーーそんな人にオススメしたい、埼玉県の「見沼田んぼ」ルート。東京都心から30キロ足らず、約1260ヘクタールの面積を誇る平らな緑地空間です。スタート&ゴール地点に設定したのは、埼玉高速鉄道の終点「浦和美園駅」。浦和には7つの駅がある(※)といわれてきましたが、浦和美園駅は20年前に誕生した「8番目の浦和駅」です。2002年開催のサッカーワールドカップに合わせ、埼玉スタジアムとともに2001年に開業したもので、駅舎や周辺もサッカーにちなんだデザインが施されています。運行する路線はひとつだけですが、その名も「埼玉スタジアム線」。ちなみに埼玉高速鉄道は東京メトロ・南北線との直通運転が行われており、港区セレブも東大エリートも、乗り換えなしで見沼田んぼへの輪行が楽しめるのです。

駅前で輪行バッグに入った自転車を撮っていたら、スクーターのおじさんが「折りたたみ自転車ですか?いいですねぇ」と声をかけてくれました。「へへっ、ありがとうございます」と答えて自転車を組み立て、気分よくスタートです。
※浦和駅・北浦和駅・南浦和駅・東浦和駅・西浦和駅・武蔵浦和駅・中浦和駅(すべてJR東日本)


浦和美園駅から徒歩15分の埼玉スタジアムは浦和レッズの本拠地でもあります。というわけで、駅は構内も外もレッズ推し。

駅の建物は大きくて実に立派。駅名の左にある「SR」は「Saitama Railway(Corporation)」の頭文字を取ったもの。

駅西口へ出て、国道463号線を西へ。陸橋で東北自動車道を越えるなど、少し交通量の多い場所を通ることになります。幹線道路を走るのはストレスもありますが、一瞬だけなので気をつけてやり過ごしましょう。

走り出して最初にぶつかる、国道463号線の大きな交差点。この道は越谷市につながる「越谷浦和バイパス」でもあります。

陸橋の上から見える東北自動車道の浦和ICをフェンス越しに撮影。その向こうには埼玉スタジアムの屋根も見えています。

国道から北に折れると、周辺の空気が一気に静かになるのを感じます。今回の相棒であるSpeed Falcoを抜き去っていく車も、大型トラックから軽トラックへ変化しました。間もなく現れる小さな橋には、「見沼代用水路 東縁(みぬまだいようすいろ・ひがしべり)」の文字が。見沼田んぼは300年近く前に拓かれ、この見沼代用水の恩恵を受けて発展してきました。

「東縁」の流域は埼玉県の上尾市・さいたま市・川口市と東京都足立区。埼玉県内のみを流れる「西縁(にしべり)」も存在。

橋に自転車を立てかけて撮影していたら、草むらに小さな影が。あまり詳しくないのですが、これはカナヘビってやつかな?

簡単に説明すると、見沼代用水とは灌漑農業のために作られた水路のこと。まず1600年代に初代の「見沼用水」が整備されましたが、農業が発展するとその水だけでは足りなくなってしまいました。そこで新たに利根川から水を引く水路が作られ、見沼用水に代わる二代目水路として「見沼代用水」と呼ばれるようになったのです。

そもそもこのエリアが農地として拓かれるまでには、江戸時代初期からとてつもない大工事が行われてきました。ため池の造成と干拓、新たな水路の整備という複雑な経緯で現在の形に至った見沼田んぼ。興味のある方は、その歴史についてもぜひ調べてみてください。「氾濫を繰り返す荒川と利根川を分離させて流域を変え、東京湾に注いでいた利根川を太平洋に逃がす」という工事はスケールが大きすぎて、もはや神の領域(?)にも思えます。

煤けていますが、車とバイクの進入を禁ずる標識が。お散歩の方にもあいさつしつつ、誇らしい気持ちで堂々と進入しましょう。


この土地を手入れし、希少種と生物多様性を守る活動を行うNPO法人が作った「龍神」。ミニサイズもいてほっこりします。

突如として、手作り感あふれる龍のモニュメントが現れました。沼の干拓によって棲み家を追われる「主」が、娘に姿を変えて工事責任者の夢枕に立つーー昔話のスタンダードな展開ですが、ここ見沼にもそうした「龍神伝説」があります。モニュメントは愛嬌のある顔立ちなのに、じっと見ているとだんだん怖くなってくるような……。木や草が生い茂り街灯もないこの辺りは、日が暮れたらさぞ寂しいことでしょう。沼や林から人ならざるものが現れても何らおかしくはありません。自然に対する畏敬の念を早々に揺さぶられつつ、ペダルをこいで先に進みます。


晴天に恵まれ、遠くに霞む富士山とビニールハウス、メタセコイアのコラボレーションも見られました。


見沼代用水東縁は「緑のヘルシーロード」と名付けられており、ウォーキングやジョギングをする人、もちろん自転車に乗る人にも親しまれています。四季折々に異なる動植物が見られ、この日も大きなカメラを持ってバードウォッチングを楽しむ人が多くいました。

基本的にはずっと平坦なルートなので、走ってみるまでは、451ホイールはオーバースペックかもと思っていました。しかし意外な路面ギャップや思いがけない段差があり、大径モデルの安心感に助けられることがありました。

あちこちに設置されている案内図。上下に描かれているのは埼玉県のマスコット、しらこばとの「コバトン」です。

農耕車も運転できるコバトン。素材の多さは一見の価値があります

一帯には畑や田んぼ、果樹園が広がっていますが、走っていてふと、「こういう雰囲気の農地はあまり見たことがなかったかも」と感じました。田畑について知っていることなど何もないと思っていたので、こんなふうに感じたことは新鮮でした。


たとえば新幹線の車窓から見える大規模な田畑は、どこまでも平らで美しいものです。それは重機や大型農機をフル活用し、21世紀の技術を注いでたゆまぬ整備を続けているからなのではないかと気づきました。対して見沼田んぼにはどことなく、江戸時代の開拓当時を思わせる野趣があります。木が多いこと、ひとつひとつの田畑がコンパクトなこと、荒れ地と化した休耕地があることもその理由かもしれません。治水面から農地転用が規制されたり、反対に宅地開発への要望が高まったりと、見沼を取り巻く環境は時代によって大きく異なります。そうした歴史の積み重ねが、一種独特の景観を生んでいるのではないでしょうか。

おっと。田畑の多くは私有地なので、興味がわいても立ち入りは厳禁です。

細いタイヤのロードバイクも見かけましたが、場所によってはオフロードあり、路面のクラックありなので要注意。

さぎ山記念公園では陽光の下、釣り人たちが孤独な戦いを繰り広げていました。ヘラブナなどが釣れるそうです。

さて、緑のヘルシーロードを逸れ、曲がりくねった細い路地を通り抜けます。スマホのナビのおかげでどこへでもたどり着ける時代になりましたが、Goo◯leの過酷な道案内に震えたことのある方も多いのではないでしょうか。この辺りの住宅街を縫う古い道はとても細く、ナビの指示に反して通り抜けられないこともあり、自動車だと苦労することもままあります。そんなルートも怖くないのが自転車のいいところ。砂利道や未舗装路も点在していますが、20x1-1/8の細すぎないタイヤのおかげでちょっと冒険してみることもできました。臆せず突き進み、ときには臆せず引き返します。

拙い写真では伝わりきらないのですが、絶対に車は入れない道幅です。こうした道はこの辺りにはよくあります。



右を見てもハウス、左を見てもハウス、行く先にもハウス……。四方をハウスに囲まれ、一瞬方向を失いました。

お住まいの方などには周知の事実ですが、消火栓のフタでもサッカー推しです。ご当地マンホール好きもぜひ!

今度は開けた農地を走り、ビニールハウスの間を抜けて、一路「岩槻いちごファーム Nakaiwa」へ。こちらでは実際のいちご狩り(※)も楽しめますが、コロナ禍に対応した冷蔵の自動販売機が設置されているのがポイントです。自販機にはその日収穫したいちごが補充されており、新鮮ないちごを労せずして、しかもソーシャルディスタンスを保ったままいただくことができます。売店もありますが、自販機ならいちご狩り営業が休みの日でも購入可能。ちなみに自販機ではトマトも売っています。売り切れも多いので、確実に入手したい方は早めの時間にどうぞ。
※少人数制や換気・消毒の励行など、コロナ対策を行っての実施となります。営業の詳細および品種や価格は、感染症の状況や時期によって異なります。



「いちご自販機」は、その前に立っただけで甘い香りが。10時半ごろでほぼ売り切れ、滑り込みセーフでした。

お金を入れて欲しいものが入った扉の番号ボタンを押せば扉のロックが外れ、晴れていちごは私のものに!

さすがいちご農園、タンクもストロベリーカスタムされています。トマトペイントのタンクもありました。

次にめざすのは、最後の目的地である埼玉スタジアム。地元では「ワンツーツー」の愛称で呼ばれる国道122号線を通るのが近道ですが、静かな道をゆっくり走りたいのであえて遠回りし、綾瀬川沿いを行くことにします。


利根川水系のこの川も、古くから人の手によって流域や形を変えてきました。あまりきれいとは言いがたい現状ですが、歴史を知ればまた感慨を持って眺められます。たゆたう水中の草も、流れに浮かぶペットボトルも、淀んだ底に見える古タイヤも……大小問わず、ゴミの無責任な扱いはすまいと心に誓いました。

洗濯機が捨てられた向こう岸で、カメが甲羅を干していました。見沼田んぼ一帯は不法投棄に悩まされる場所でもあります。


埼玉スタジアムは公園として整備されており、とくに試合のないこの日も、家族連れや散歩をする人たちでにぎわっていました。のんびりした空気に誘われ、バックパックを下ろしてベンチでひと休みすることに。背中から甘い香りを漂わせてずっと誘惑してきていたいちご「紅ほっぺ」のパックを取り出します。


宝石のような輝き。背景にした芝生の緑と赤のコントラストが美しく、あとでいちごのサラダにしようと決めました。

撮影もそこそこに試食!冷蔵自販機に入っていただけあり、まだほんのり冷たくて、甘くておいしーい。強い日差しで少しだるくなっていた体がシャキッとしました。埼玉スタジアムからゴール地点の浦和美園駅はすぐそこ。駅前でささっと自転車を収納したら、背中のいちごをつぶさないように気をつけつつ、再び輪行して帰ります。

いちご自販機で購入したトマトは晩酌のお供に。強い紫外線で日焼けしてしまったので、今夜はビタミンC補給に努めます!

トマトの品種は「フルティカ」。分厚い果肉は食感が心地よくて味が濃く、何もつけなくてもおいしい!


今回巡ったポイントと走行ルートです。11.7kmほどの、どこか昔懐かしい田園風景に触れられたのどかなサイクリングでした。



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今回の「ローカル駅からはじめる自転車散歩」は如何でしたか?日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。今回利用したクロモリフレームのSpeed FalcoはDAHONの定番モデルの1台で、クロモリ特有のしなりとETRTO451ホイールがもたらす快適で伸びのある走りが特徴です。皆さんもDAHONの折り畳み自転車(フォールディングバイク)で、自転車散歩という休日の愉しみはいかがでしょうか。DAHONでは様々な折り畳み自転車をラインナップしていますので、走行機能と折りたたみ機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあった製品をお選びください。

DAHONでは今後も、様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載いたします。更新時にはFacebookTwitter、「ローカル駅からはじめる自転車散歩」専用のInstagramアカウントでお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。


*使用車体
 DAHON / Speed Falco(Color:マットガンメタル)2021年モデル

*この記事で紹介している情報は、2021年4月時点の取材に基づいています。
*歩行者のいるところや細い路地などは押し歩きや迂回するなど、マナー優先でサイクリングを楽しみましょう。