2021年7月19日月曜日

ローカル駅からはじめる自転車散歩【西武鉄道 池袋線 秋津駅】

 ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事。今回は、西武鉄道 池袋線 秋津駅を起点に大泉学園駅までのルートを走ります。



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異常気象が通常気象になりつつあるこの数年。空梅雨や早々の猛暑に苦しむ年もありますが、2021年は梅雨らしい梅雨になりました。曇り空の下でも、雨でなければ自転車で出かけたい……そんな気持ちを抑えきれない梅雨時某日、「くもり」の予報を信じて出かけます。今日のポタリングのスタート地点は、西武池袋線の秋津駅。路線の起点である池袋から30分ほどのベッドタウンです。「秋津」は東京都東村山市の地名ですが、駅舎とホームは東村山市と清瀬市、そして埼玉県所沢市にまたがって建っているというボーダーレスな駅です。


改札を出ると、駅の柱に貼り紙がありました。文面をなぞる視線の先を、ツバメがすいすいと横切ります。

貼り紙に促されて周囲を見渡すと、券売機の近くや、駅に隣接する交番の角などに、ツバメの巣がいくつも作られていました。ツバメは人とともに暮らす鳥ですが、近年の都心部では見かけることが少なくなっています。いつもの生活圏を少し離れただけで、さっそくうれしい出会いがありました。今年初めてのツバメにほっこりしつつ、気になるのはその見事な低空飛行……。ツバメが低く飛ぶと雨が降る、っておばあちゃんが言っていたような。

よく見ると雛のつぶらな瞳が見えます。だいぶ大きくなっていますが、まだ黄色いくちばしがあどけないですね。

駅を後にして清瀬市を走るうち、五叉路になっている「松山三丁目」の交差点に出合いました。ここは東京都清瀬市と埼玉県新座市、東京都東久留米市の1都1県3市が合流する場所です。遠出に罪悪感の伴うこのご時世ですが、ここでは交差点を渡るだけで複数の境を越えることになるわけです。そして案の定、パラパラと弱い雨が降ってきました。空は明るいまま5分ほど降っては止むことを繰り返すので、しばしカメラをしまってやり過ごします。

写真左手が東京都清瀬市。小金井街道を境に埼玉県新座市になり、さらにその手前は東京都東久留米市になります。

申し遅れましたが今回の相棒はDAHON Routeのコバルトブルー。灰色の雲が重く垂れ込めたこの日は孤軍奮闘、明るい青の車体で写真を鮮やかにしてくれました。ふかふかのサドルや気軽なグリップシフト、寄り道に便利なスタンドなど、親しみやすさがうれしいモデルですが、この時期に何より頼もしいのは前後のマッドガード(フェンダー)でしょう。雨上がりの湿った道でも泥ハネがなく、最悪の場合、雨が降っても安心です。そしてさらにどしゃ降りになったとしても、最悪の場合、タクシーを拾えば載せてもらえる。そんな気持ちで走れるのだから、やっぱり折り畳み自転車って最高です。


交通量の多い道を避けて走っていたら、少し道に迷ってしまいました。方角を頼りに進むと、細くて急な坂道に出ました。地図を見るとここは「大円寺通り」。その名の通りお寺の裏手のようです。コンクリートの法面がびっしりと苔むして、曇天と相まってなんともしっとりした雰囲気を醸しています。

この階段を上るとお寺の敷地なのでしょうか。少し前に弱い雨が降ったためか、苔がより色鮮やかに見えます。



大円寺通りの坂を下ると川にぶつかりました。めざしていた「黒目川」です。水は意外なほどに透明で、段差のある場所以外では水音を立てることもなく静かに流れています。今回のルートが平坦であることが、ゆるやかな水の動きでよくわかりました。


川沿いが自転車道になっていて、のんびりと安心して走ることができます。控えめな看板もありました。


こうした道ではよくランニングの人や自転車散歩の人に出会うものですが、この日は天気のせいかあまり人もいませんでした。沿道にはたくさんの花が咲いているところがあり、近くのお年寄りがお手入れをされている旨の貼り紙が。自転車を停めて写真を撮っていると、お散歩中らしいご夫婦も「きれいねぇ、すごい」と目を細めて通り過ぎていきました。

自転車道は西武線の線路をくぐります。こんな写真だって、晴れていればずっとましに見えるのに……。

黒目川のカルガモの親子。雛は2羽しかいませんでした。きっとたくさんいた兄弟たちの分まで、元気に育てー!

とうもろこし畑があちこちにあり、その場で販売しているところもありました。

黒目川を離れて走りながら、「ひがしくるめ」を流れる「くろめがわ」の名前について考えました。賢明な読者の方なら、このふたつが無関係ではないことにお気づきでしょう。起源は川の名前が先のようです。明治時代に「久留米村(くるめむら)」が生まれたとき、この地を流れる「久留米川(くるめがわ)」からその名をとったとされています。その音が転じて現在の黒目川になった、というのが一般的な説だとのこと。同じく黒目川流域である埼玉県新座市によると、川の名前の由来にも諸説あるそうですが、個人的には「川の蛇行により水面がクルメク様子からきた」という説が気に入りました。「くるめく水面」ーー笹舟でも浮かべてみたくなるような、ぜひ使ってみたいすてきな日本語です。

一見すると何の変哲もない住宅街ですが、ここは境界好きの人にはよく知られるスポットです。

真っ白な空を嘆きながら進み、練馬区西大泉町に到着しました。ここは四方を埼玉県に囲まれた東京都。つまり「飛び地」です。ごみ収集などの行政区分も東京都に属しており、なぜこのような形で残っているのかは資料もなく自治体でもわからないとのこと。複数の境界に建つ駅からスタートして、入り組んだ都県境を通ってきましたが、ここにも複雑なボーダーが存在しました。愛好家も多いこうした土地ですが、目に見えるものは何もないということも不思議です。

至近距離に並ぶマンホールのふたも……。

左側は東京都の花であるソメイヨシノが描かれたもの。東京都区部に設置されるデザインです。

右側のふたは新座市の木・モミジがデザインされています。中央にはカタカナの「ニ」と「ザ」を用いた市章も。

出典:国土地理院ウェブサイト/埼玉県に囲まれた飛び地の東京都練馬区西大泉町(赤い線内)。緑の線が都県境(南側が東京都)。


静かな住宅街に野菜の無人販売を発見。トマトやきゅうりはまだありましたが、枝豆がほしかったので無念。

今回ゴールに設定したのは、スタートの秋津駅と同じく西武池袋線の大泉学園駅。名前に反して、駅の近くに「大泉学園」はありません。ぼんやりと走っていたらふいに、以前勤めていた職場のことを思い出しました。その職場にはこの大泉学園駅に住んでいるSさんと、西武多摩湖線の「一橋学園駅」に住んでいるWさんという人がいました。Wさんが「別にうちは一橋大の最寄駅じゃないんだよね」と言い、Sさんも「そうそう、うちも!」と相槌を打って、西武線談義に花を咲かせていたものでしたーー。Sさん、まだ大泉学園に暮らしているのかな。ふたりとも元気にしてるかななどと考えているうちに、次の目的地が見えてきました。なぜ駅名と実情が異なるのかは、関心のある方はぜひ調べてみてください。鉄道会社の都市計画や街の変遷がうかがえて、これまた興味深いものがあります。

突如として現れる飼料タンク。角度によっては、遠くのタワーマンションとの異色の2ショットも拝めます。

めざしていたのはこちら、東京23区唯一の牧場です。最寄の大泉学園駅から徒歩圏内で乳牛が飼育されていて、柵の中には白黒のホルスタインが見えます。通常は見学もさせてくれる牧場ですが、コロナ禍のため防疫の観点から立ち入ることは遠慮しました。道の反対側では搾りたての牛乳を使ったアイスが販売されているので、味覚で牧場気分を満喫することは可能です。絶対食べたい!という方は早めの時間にお出かけください。

さて、牧場から5分ほどで、最後の目的地である大泉学園駅に到着です!

こちらは駅北口。曇り空でも行き交う人も多くにぎやかです。

エレベーターを上がった北口コンコースには、「大泉アニメゲート」があります。2015年に整備されたこの歩行者通路には、練馬区ゆかりのアニメキャラをかたどった等身大のブロンズ像が。ちなみに大泉学園駅の名誉駅長は『銀河鉄道999』の車掌さんで、発車メロディーはタケカワユキヒデさんの「銀河鉄道999」という徹底ぶりです。

手塚治虫先生の虫プロダクションが練馬区で創設されたことから、『鉄腕アトム』のアトム像。

『うる星やつら』のラムちゃん。作者の高橋留美子先生は練馬区で30年来活動されているそうです。

松本零士先生は半世紀以上練馬区に住んでいるとのこと。『銀河鉄道999』のメーテルと鉄郎像。

銀河鉄道株式会社の定期券もあって芸が細かいですね。

さて、梅雨空のハラハラスリリングなポタリングはここまで。またポツポツと雨が降り出していたので、迷うことなく輪行して帰宅します。雨の止み間を縫って走ることができたのは幸運と思って及第点にします。

そうそう、大泉アニメゲートには『あしたのジョー』の矢吹丈もいました。作画のちばてつや先生だけでなく、原作者の高森朝雄さんも練馬区在住なのだそうです。ブロンズ像は等身大とのことですが、矢吹氏のものは筆者と目線がほぼ同じで、「あれ、ジョーこんなに小さいの?」と意外に感じていました。帰宅後に調べたところ、デビュー当時のジョーは160cm台前半だったとの情報を見つけて納得。アニメキャラとの背比べって楽しいですね。顔も小さくてスタイルがよかったし、2次元のままでは得られなかった感覚を得てうれしくなりました。

「今度は晴れてる日に来いよな……!」


今回巡ったポイントと走行ルートです。東京都と埼玉県の都県境を何度も跨いだ、約13kmの自転車散歩でした。



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今回の「ローカル駅からはじめる自転車散歩」は如何でしたか?日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。今回利用したDAHON Routeはエントリーモデルながらもマッドガード(泥除け)やキックスタンドなどデイリーユースに便利なパーツが標準装備、加えて直観的に扱いやすいグリップ式シフター、手の平にフィットしやすいエルゴタイプのグリップ、ふかふかのサドルなど、ちょっとしたサイクリングに快適な装備が満載のモデルです。皆さんもDAHONの折り畳み自転車(フォールディングバイク)を持参して、自転車散歩という休日の愉しみはいかがでしょうか。DAHONでは様々な折り畳み自転車をラインナップしていますが、走行機能と折りたたみ機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあった製品を選んでください。

DAHONでは今後も、様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載いたします。更新時にはFacebookやTwitterでお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。また「ローカル駅からはじめる自転車散歩」のInstagramアカウントもありますので、こちらもぜひチェックをお願いします。


*使用車体
 DAHON / Route(Color:コバルトブルー)2021年モデル

*この記事で紹介している情報は、2021年7月時点の取材に基づいています。
*歩行者のいるところや細い路地などは押し歩きや迂回するなど、マナー優先でサイクリングを楽しみましょう。