2022年8月15日月曜日

ローカル駅からはじめる自転車散歩【JR東日本 中央本線 千駄ヶ谷駅】

 ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事。今回は誰もが知っている地名『渋谷』がキーワード。暗渠になった渋谷川を辿ろうとJR千駄ヶ谷駅からスタートします。



 

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『渋谷』の地名を知らないという人はおそらくいないでしょう。誰もが、知っている街ですが、そこに渋谷川という川が流れているのをご存じでしょうか。渋谷にはよくいくけれど、川なんて見たことがないという人もいるでしょう。それも当然といえば当然です。川はアスファルトの下を流れている、つまり暗渠となっているため、その流れを見ることはできません。(暗渠巡りは東急電鉄 目黒線 不動前駅の記事でも紹介しました。) 

暗渠となったのは高度経済成長を遂げてから。調べてみると、千駄ヶ谷駅近くの新宿御苑内の池が渋谷川の源流となるようです。今回のスタート地点をJR千駄ヶ谷駅として、その名残を探しながらサイクリングを楽しんでみようと思います。

公共交通機関を利用して自転車を運ぶことを輪行(りんこう)といいます。サイクリングや旅行の行程の一部を自走せずに鉄道、船、飛行機、バスなどを利用するもので、遠くへ移動したり、時間を短縮することができます。

新宿御苑は柵で囲われているため、千駄ヶ谷駅側から入場することはできません。ただ、歩き回っていると、不自然な道路の広がりを発見。このような地形は何らかの理由があるものです。工事現場に設けられた覗き穴の向こう側は用水路のようになっています。やはり、この下を川が流れているようです。

新宿御苑は有料ですし、そもそも自転車で入ることはできません。渋谷川の源流を目視で確認することはできませんでした。

不自然な歩道。このような不自然さは必ずといってよいほど理由があります。工事現場の向こう側を覗いてみれば、川が流れていました。この不自然さをさらに調べてみると、区境も理由となっているようです。

源流探しのために地図アプリを何度も見ていたところ、近くに神社を発見。暗渠巡りとは関係がありませんが、せっかくなので、訪問してみましょう。寄り道が気軽にできるのも自転車散歩の魅力です。

訪れたのは鳩森八幡神社。綺麗に整備された参道、関係者の明るい挨拶の声、そして、何よりも巨大な富士塚が参拝客を迎えてくれる神社です。サイクルラックもありますよ!


富士塚は富士山を模した山になっており、江戸時代では信仰の対象にもなっていました。今でも、東京の各所に残されています。鳩森八幡神社の富士塚は都内では最も古く、都指定有形民俗文化財にも指定されています。実際に登山することも可能です。せっかくなので、自転車を降りて、山頂を目指しました。


神社で今回の旅の無事を願い、渋谷川暗渠巡りに戻ります。ところが、暗渠らしい兆しがなかなか見つけられません。この千駄ヶ谷界隈は新国立競技場建設に合わせて、道路整備がかなり行われたので、名残が全くなくなってしまったのかもしれません。

路地裏を走っていると不自然なくらいにマンホールが並んでいます。これは地下水路がある(あった)証です。それに沿って、進むと、明らかに川が流れていると思われるような曲がりくねった道とぶつかります。さらに、進むと決定的な証拠が!

マンホールがたくさんある=地下に水が流れていることが多いです。


見つけました、親柱跡。道の端に残された親柱こそが、かつて、橋があった証です。親柱に刻まれた文字は原宿橋とありました。この辺りは裏原宿とも呼ばれていますが、橋名と地名の一致がみられました。



ここまで、私が走ってきた道は暗渠。写真撮影をしながら、往年の様子を想像していましたが、他の人は誰も気に留めていない様子。むしろ、道端に止まっていると邪魔になってしまいますので、自転車に乗り、暗渠巡りを続けます。

まるで蛇道、道がうねうねとしています。そして、突然に大通りにでます。明治神宮へとつづく、表参道通りです。交番横に石碑がありますが、よくみてみると、「参道橋」という記述を発見。昔は表参道に橋がかかっていたのがわかります。

参道橋の跡。横にある解説文によると、渋谷川は富嶽三十六景にも描かれた景観だったそうです。


参道橋がかつてあった場所の上に、現代では歩道橋がかかっていました。イルミネーション時期には多くの観光客が歩道橋上に立ち止まって写真撮影をするスポットとなっています。

参道橋を越えて先へ進むと、キャットストリートと呼ばれる通りです。この通りこそ、渋谷川の遊歩道跡で、道がくねくねしています。

川の土手跡でしょうか。側道となっているところが、おそらく暗渠で、キャットストリートが土手なのでしょう。


公園として利用されている箇所もありました。なぜ、道路の真ん中に公園があるのか謎でしたが、今回の自転車散歩でよくわかりました。

キャットストリートを抜けたところで、明治通りと合流して、渋谷川の暗渠に見える箇所も終わってしまいました。。。と思ったのですが、よくみると、その先に道が見えます。



近年、大改築が行われた宮下公園ですが、ここも渋谷川暗渠です。宮下公園の下で、川が流れています。宮川公園沿いは遊歩道ですので、自転車を押して進みます。そうすると、渋谷駅前のターミナルへでました。まさに現在大改築の途中で、ここには渋谷川の面影がありません。

渋谷川暗渠が駅の反対側に抜けているだろうと考えて、ぐるりと迂回して反対側へでます。そこで橋跡を見つけて、さらに下を除くと綺麗な水が流れています。ここは渋谷リバーストリート。渋谷川の暗渠区間が終わり、川が地表に現れる(つまり開渠になる)場所です。新宿御苑の大地から脈々と流れてきた暗渠はここで、地上に顔をだします。



上を見上げると、渋谷ストリームというビル。もう納得です。「ストリーム=小川」という意味ですから、この新しい商業ビル名は渋谷川に因んでいるのはいうまでもありません。

ここでネットを調べてみると、面白い情報が! 欅坂46というアイドルグループをご存じでしょうか。彼女たちのデビューシングル「サイレントマジョリティー」のMV制作やジャケット写真撮影はこの界隈で行われました。開発中の工事現場で撮影が行われたようです。また、このグループの曲に『渋谷川』があります。アイドルグループが暗渠とつながるというのは興味深いですね。


ここで、ちょっと寄り道第2弾。渋谷はその地名にある通り、谷底にある駅です。しよって四方八方どちらに進んでも坂道となりますが、今回は南東方向に坂を登ります。坂を登った先にあるのは金王八幡宮。ここの木陰でしばし休息をします。気温はすでに34度。

現代では金王八幡宮となっていますが、ここはかつての渋谷城。都会のビルの谷間に閑静な空間が広がっています。

城址を思わせるものは何かないものか探ってみましたが、石があるのみでした。

せっかく、ここまで渋谷川を巡ってきたので、暗渠が終わってからの先も探検したいと思います。渋谷川はは明治通り沿って流れていきますが、川沿いに道がほとんどありません。よって、明治通りを進んで、下流を目指します。

恵比寿橋。先に紹介した欅坂46の『渋谷川』の歌詞2番に登場します。

天現寺橋。首都高の出口もありますので、名前を知っている人も多いのではないでしょうか。天現寺橋までが渋谷川です。ここから先は古川と名前を変えます。また、区境でもあり、渋谷区から港区へかわります。

古川橋交差点。古川橋も欅坂46の『渋谷川』の歌詞1番に登場します。歌に登場する人は下流から上流へと歩いたのですね。いつのまにか川が濁っていました。渋谷リバーサイドウォークの開渠になった地点では、水を浄化するためにさまざまな対策を講じていたようです。せっかく綺麗にしたのに、ちょっと下流では汚水になっているのは残念です。

赤羽橋までたどり着きました。ここでふと見上げると、綺麗に東京タワーが見えました。東京タワー撮影スポットだと思うのですが、写真映えはいかがでしょうか。


さらに下流へ進むと、第一京浜とぶつかります。ここは旧東海道です。それもあってか、川沿いには屋形船が停泊しています。ここから東京湾まではあと少し。屋形船にのって東京湾で夕涼みをするのは風流に感じることでしょう。

第一京浜を越えると、ビル街にはいります。その先は日の出桟橋。いよいよゴール、渋谷川・古川の河口となります。川巡りをして、河口にたどり着くと、達成感でいっぱいに。

ゴール直前にもうひとつ。河口の直前に石垣跡を発見しました。旧芝離宮恩賜公園の南側ですから、先月ご紹介した外濠ではありませんが、この辺りにあった邸跡から発見された石垣のようです。


日の出桟橋に到着しました。今回利用した折り畳み自転車DAHON Visc EVOの色はスカイグレー。その言葉のモデルになったと思われるような紺碧の空と海が広がっていました。

ここで、恒例のコーヒー休息。サイクリング当日は気温35度を越える夏日。エネルギー補給のためにタコライスも追加しました。

 

今回巡ったポイントと走行ルートです。新宿御苑から河口まで渋谷川を辿る、約12kmの自転車散歩でした。川沿いをサイクリングというと、江戸川、荒川、多摩川などの河川敷を颯爽と走るイメージがあるのではないでしょうか。それはそれでとても気持ちが良いものですが、都会を流れる川をめぐるのも一興です。今回スタートした新宿御苑界隈は新国立競技場建設もあって小綺麗で、渋谷駅界隈はまさに開発中です。そして、いつのまにか川が用水路のようになっていき、最後は河口で開放感を感じられます。このように景観がどんどんと変わっていくのが都会の川巡りの魅力と言えるでしょう。


 

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今回の「ローカル駅からはじめる自転車散歩」は如何でしたか?日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。今回利用したDAHON Visc EVOは多目的で使える折り畳み自転車です。東京では突然の急坂があったり、赤信号に捕まってしまうことも多いです。このような上り坂やストップ&ゴーが多い道も20段変速でなんなく乗り越えることができます。DAHONでは様々な折り畳み自転車をラインナップしていますので、走行機能と折り畳み機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあったモデルを選んでください。

DAHONでは様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載しています。更新時にはFacebookTwitterでお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。また「ローカル駅からはじめる自転車散歩」のInstagramアカウントもぜひチェックしてみてください。

 

*使用車体
 DAHON / Visc EVO(Color:スカイグレー)2022年モデル

*この記事で紹介している情報は、2022年8月時点の取材に基づいています。
*歩行者のいるところや細い路地などは押し歩きや迂回するなど、マナー優先でサイクリングを楽しみましょう。