2022年5月27日金曜日

ローカル駅からはじめる自転車散歩【東急電鉄 目黒線 不動前駅】

 ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事。今回は東急目黒線の不動前駅を起点に、首都圏の暗渠(あんきょ)マニアおよび湧き水愛好家が必ず一度は訪れるという羅漢寺川(らかんじがわ)周辺を巡りたいと思います。


 

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初夏の潮風を感じながら海沿いの道を走るのも、遥か彼方に地平線が見える北関東の田舎道を走るのも楽しいけれど、大都会の片隅に息をひそめるように存在するうら寂しい路地裏をくねくね縫うように走るのもとても楽しい!というわけで、今回は急遽「DAHON暗渠探検隊(隊員は自分ひとり)」を結成し、始まりから終わりまですべて暗渠化された切ない川「羅漢寺川」とその周辺の湧き水スポット&路地裏をウロチョロと走り回ってみたいと思います。

そんなこんなでやってきたのは東急目黒線の不動前駅。ここから暗渠探検の旅を始めたいと思います。ちなみに不動前駅は、JR山手線目黒駅で東急目黒線に乗り換えてひとつめの駅。所在地は東京都品川区西五反田5丁目。すぐ近くにある目黒不動尊がその名前の由来です。

探検の相棒はDAHON Horize Disc。舗装状態のよろしくない路地裏を走るのにぴったりな、20インチの極太タイヤを装着した折り畳み自転車です。

不動前駅の東側を流れる目黒川。桜で有名な目黒川ですが、花見のシーズンはすでに過ぎ去り、いまはすっかり葉桜モードです。写真上部の高架橋は東急目黒線の線路架橋です。


目黒川の側道は目黒川緑道として整備されています。のんびりポタリングするのにピッタリな緑道ですが、今回の目的はそれではありません。下の写真の左端をよお〜く見てください。下水道の出口のような四角い穴が見えるでしょうか?


少しアップ。


もっとアップ。実はこれがDAHON暗渠探検隊の今回のターゲットである「羅漢寺川」の終着点、すなわち本川(ほんせん)である目黒川との合流地点です。冒頭でも書きましたが、羅漢寺川は開渠部がゼロ、川全体が暗渠という、暗渠の標本のような川。早速対岸に渡って、上流の方へさかのぼっていきたいと思います。


先ほどの四角い開口部の真上の道。この下を羅漢寺川が流れています。


ほんの少し走ると黄色い車止めが出現。路地の入口にある車止めというのは、実は暗渠の目印であることが多いのです。川にフタをしているだけなので、車は入っちゃダメよ!ということのようです。羅漢寺川の暗渠は車止めが丁寧に設置されていて、車止めを辿ることでほとんど迷うことなく上流へ遡っていくことができます。


暗渠沿いにある五百羅漢寺。羅漢寺川の名称の由来です。


五百羅漢寺を過ぎてすぐに出現するコンクリート製の車止め。この下を羅漢寺川が流れています。正面は日本三大不動に数えられる有名な目黒不動尊です。


目黒不動尊(泰叡山 瀧泉寺)に到着。羅漢寺川の暗渠は目黒不動尊を回り込むように流れています。休日、平日かかわらず参拝客で賑わう目黒不動尊ですが、いたるところから湧き水が湧いていることでも有名です。

目黒不動尊の入口にある仁王門

目黒不動尊のある目黒区下目黒周辺は武蔵野台地の東端にあたり、地下を流れてきた伏流水が湧き水となって、いろんなところから湧き出しています。住宅地の湧き水は都市化が進むにつれてそのほとんどが塞がれてしまいましたが、目黒不動尊の敷地内の湧き水は昔と同じように湧き出し続けています。ちなみに羅漢寺川の水源も武蔵野台地の地下を流れてきて、このあたりで湧き出してきた湧き水です。

前不動堂の手前の湧き水。湧水量をコントロールしていない(できない?)ので、このようにダラダラと敷地内に流れ出しています。東京の名湧水57選に選ばれている独鈷の滝など、目黒不動尊にはほかにもたくさんの湧き水スポットがあります。

目黒不動尊の道路を挟んだ向かい側にある「目黒三折坂ハイム」というマンション前の湧き水。首都圏の湧き水愛好家の中ではけっこう有名です。湧水量が多く塞ぐことができなかったので、親水設備にしたそうです。


石臼の真ん中の穴から湧いています。


これが三折坂。右が目黒不動尊、左が目黒三折坂ハイム。このあたりはこういった坂がたくさんあり、この高低差が湧き水の理由です。


車止めを目印に、暗渠探検に戻ります。


路地裏を進みます。この曲がりくねった路地の下を今も羅漢寺川は流れています。暗渠になる前の羅漢寺川はどんな川だったのでしょうか?メダカとかもいたのでしょうか?


上流に向かって路地裏をさらに進んでいきます。


曲がりくねった路地裏を走ること数分。住宅地の擁壁からドバドバ水が湧き出していることで有名な「羅漢寺川の湧き水」に到着。以前は水鉢で湧き水を受けていたのですが、数年前に塩ビ管で暗渠に流し込む今の形状に変更され、東京の湧き水愛好家は嘆き悲しみました。


湧き水の排出口を撮影しました。水量がわかるでしょうか?


写真では分かりづらいと思い、動画を撮ってみました。8秒ほどの動画ですのでぜひ見てください。


羅漢寺川の湧き水前に停めたDAHON Horize Disc。木漏れ日がスティールグレーの車体に反射していい雰囲気です。

ここからは少しだけ今回の暗渠探検で見つけた、これぞ暗渠!という風景を紹介したいと思います。では早速、暗渠の風景その1/路地の入口に設けられた車止め。


暗渠の風景その2/連続するマンホール。


暗渠の風景その3/もともとあった川の護岸壁の上に積み上げられたブロック塀。この2段構造の壁も暗渠の目印です。


これも同じ。もともとあった護岸壁の上に設けられた万年塀。


暗渠の風景その4/道路に下りるために設置された小さな階段。もともと川だったところが途中から道路になったので、あとから階段を設置したのだと思われます。


暗渠的風景をカメラに収めつつしばらく走ると、暗渠らしき路地が二股に分かれている場所に辿り着きました。どちらが羅漢寺川の暗渠か迷いましたが、結論からいうと、左側が羅漢寺川の暗渠で、右側は羅漢寺川の支川「六畝川(ろくせがわ)」の暗渠です。


路地わきに設置された目黒区みどりの散歩道の看板。この看板のおかげで、どちらが羅漢寺川の暗渠かわかりました。羅漢寺川の暗渠は「羅漢寺川緑道」として、六畝川の暗渠は「六畝川プロムナード」として整備されているようです。この看板を頼りに、まずは羅漢寺川緑道を辿り、その後、六畝川の暗渠も辿ってみたいと思います。


羅漢寺川緑道の入口。自動車どころか自転車やベビーカーさえも拒絶するかのような車止め。小径車だからなんとか入ることができました。


先ほどの枝分かれポイントから約300メートルで羅漢寺川緑道は終わりました。同時に暗渠らしき路地もなくなり、羅漢寺川の暗渠探検はいったんここで終わりとなります。血眼(ちまなこ)になって暗渠の痕跡を探せばまだ先があるかもしれませんし、もしかしたらこの道路の下に湧き水があり、そこが水源かもしれません。その答えは暗渠のように暗闇の中にある(なんのこっちゃ)ということで、もうひとつの暗渠である六畝川プロムナードの方へ行きたいと思います。


六畝川プロムナードに行く前に、羅漢寺川緑道の終点から300メートルほど西側にある清水池公園に寄りました。この池は、もともとは湧き水によってできあがった湧水池らしいので、もしかしたら羅漢寺川の水源はここではないかと思ってきてみたのですが、残念ながらこの池は立会川(たちあいがわ)という別の川の水源でした。

清水池にはヘラブナが放流されていて、無料で釣りができます。平日にもかかわらず、たくさんの釣り人で賑わっていました。

どの釣り人もかなりの大荷物です。写真の白帽子のおじさんに話を聞くと、ほとんどが地元の常連さんだそうです。

白帽子のおじさんはなかなかの上級者らしく、話を聞いている10分ほどの間に、2匹ほど釣り上げていました。釣り上げたヘラブナはすべてリリースするルールだそうです。釣竿を固定している木製の台座はおじさんの自作だそうで、常連さんはみんなそれぞれ創意工夫を凝らした自作の台座を使っていました。

毎年12月に300kg超のヘラブナを目黒区が放流しています。その原資は、常連さんたちが購入する1500円の放流バッチと、地元企業による寄付金だそうです。放流バッチを持っていなくても釣りはできますが、常連になるとみんな年に一回、感謝の気持ちで購入するそうです。

暗渠探検に戻ります。こちらが六畝川プロムナード。羅漢寺川の暗渠と比べると明るい雰囲気で、路地裏ムードは微塵もありません。水辺をイメージした青いタイルの下を六畝川が流れています。


六畝川プロムナード沿いの公園「ポケットオアシス・清水」。小さな子供が水遊びできる公園ですが、真ん中のオブジェは珍百景な感じです。

六畝川プロムナードの終点、清水稲荷神社。敷地内の説明書きによると、この清水稲荷神社はもともと六畝川の水源に祀られていたのですが、昭和27年にこちらに移築されたそうです。移築前は30メートルほど西側、現在の東急バス目黒営業所のあるあたりにあったそうです。


そしてこれが、その東急バス目黒営業所です。この敷地内のどこかから今も湧き水があふれ出て、六畝川の最初の一滴となっているのでしょう。


羅漢寺川および六畝川の暗渠探検は終わりましたが、近くにあと2か所、どうしても行きたいところがあるので、自転車散歩はもうすこしだけ続きます。

東急バス目黒営業所から家具屋さんだらけで有名な目黒通りを東にしばらく走ると、目黒競馬場跡の記念碑を見つけることができます。明治時代から昭和初期までこの場所に競馬場があり、最初の日本ダービーはここで行われたそうです。1周1マイル(1600メートル)の小さなコースだったこともあり、昭和8年に府中市(現在の東京競馬場)に移転されました。

銅像は昭和初期の大種牡馬トウルヌソル号。6頭のダービー馬を輩出したそうです。

当時のコースの外周部分が今も路地としてその痕跡を残しています。下の写真の右側の緩やかにカーブした路地がそれです。この路地があと2か所行きたいところがあると書いた1つ目です。

写真を撮っていると、前からやってきたおじさんに「ここで写真を撮っているということは、わかってるんだよね?」と声をかけられました。「競馬場の跡地らしいですね」と答えると、「らしいじゃなくて、跡地なんだよ。いっぱい写真撮っていってよ」と笑顔で言って去っていきました。もしかしたら正面の家の住人の方かもしれません。

生け垣のバラとカロライナジャスミンのむせるような香りを味わいながら、昔、競馬場のコースだった路地を撮影しました。

路地として残されているのはコースの約半分です。

次に向かったのは目黒区役所です。ここが今回の自転車散歩の最後の目的地となります。目黒区役所が入っている建物は、村野藤吾(1891‐1984)という著名な建築家が設計した千代田生命保険本社ビルを、同社が経営破綻したのちに目黒区が買い取ったものです。深夜に放送されていた「名建築で昼食を」というテレビドラマにも登場したので、ご存じの方も多いかもしれません。


区役所の正面玄関。優雅な曲線の庇(ひさし)。建築マニア的にはキャノピーと言ったりするそうです。

区役所のエントランスホール。天井に設けられた8つの天窓に注目!

モザイクタイルが敷き詰められた天窓。8つの天窓は四季を表現しているそうで、ひとつひとつデザインが異なります。

真下から見上げると巨大な万華鏡のようです。

有名な螺旋階段。ちなみに目黒区役所の窓口で「建物を見学に来ました」と伝えると、建築ガイド的な小冊子をもらうことができます。

「名建築で昼食を」の目黒区役所編では、池田エライザさんと田口トモロヲさんが、屋上庭園でフルーツサンドを食べていたのですが、残念ながら屋上庭園はまもなく閉園の時間ということで、屋上庭園でフルーツサンドを食べることはあきらめ、区役所から自転車で5分ほど走ったところにある「ナイアガラ」というカレー屋さんでかなり遅めの昼食をとり、それから最寄りの東急東横線祐天寺駅から帰路に着くことにしました。

ナイアガラは、鉄道マニアの、鉄道マニアによる、鉄道マニアのためのカレー屋さん。店内はもちろん、店の外も鉄道系アイテムで溢れ返っています。写真正面に飾られているのは、0系新幹線の丸いフタです(このフタですが、正式名称を「光前頭」というそうです。はじめて知りました)。

女性スタッフおすすめのカツカレー。美味しかったです。とはいえ、カレーを食べるためだけに訪れるのは、なんだか気恥ずかしいような、申し訳ないような気持ちのするお店です。休日には行列ができる人気店です。

今回の自転車散歩のゴール地点は、東急東横線の祐天寺駅。スタートの駅とは違う駅からさくっと帰ることができるのが、輪行の良いところです。

DAHON Horize Discの20×1.95の極太タイヤ。この写真は六畝川プロムナードで撮ったものですが、地面が凸凹している路地散歩にピッタリのタイヤでした。1.95インチというのはミリ換算でおおよそ49.5ミリ。ロードバイクで一般的な700×23Cはタイヤ幅23ミリなので、倍以上の太さがあります。この太いタイヤのおかげで快適な自転車散歩ができました。丸一日付き合ってくれた相棒に感謝です。


 

今回巡ったポイントと走行ルートです。約10kmの自転車散歩でした。


 

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今回の「ローカル駅からはじめる自転車散歩」は如何でしたか?日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。さらにスタートとゴール地点は同じ場所でなくてもよいので、走行経路は自由に組み立てることができます。今回利用したDAHON Horize Discは極太タイヤを履いた悪路走破が得意な折り畳み自転車。雨が降っても制動力が落ちないディスクブレーキを前後に装着しているので、その気になれば羅漢寺川どころか、東南アジアのメコン川の源流を目指すことも可能かもしれません。皆さんもDAHONの折り畳み自転車(フォールディングバイク)を持参して、自転車散歩という休日の愉しみはいかがでしょうか。DAHONでは様々な折り畳み自転車をラインナップしていますので、走行機能と折り畳み機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあったモデルを選んでください。

DAHONでは様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載しています。更新時にはFacebookTwitterでお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。また「ローカル駅からはじめる自転車散歩」のInstagramアカウントもぜひチェックしてみてください。

 

*使用車体
 DAHON / Horize Disc(Color:スティールグレー)2022年モデル

*この記事で紹介している情報は、2022年5月時点の取材に基づいています。
*歩行者のいるところや細い路地などは押し歩きや迂回するなど、マナー優先でサイクリングを楽しみましょう。