ゆっくり起きた予定の無い休日の朝、折り畳み自転車とともに列車に乗って、ふらっと思いのままにローカル駅で降りてみる。特別な観光地ではなく、普通に人が暮らし、働き、近所の公園で子どもが遊んでいる、なんの変哲もない町だけど、のんびり走ってみると、いろいろな発見や出会いがある。そんな、小径車だからこそのゆるい自転車散歩をお送りする連載記事。今回は、JR東日本 総武本線 浅草橋駅からスタートし、神田川を巡ります。
いつも仕事で通う東京。「次は◯◯駅」という電車のアナウンスを聞いていて、なぜその地名なのか?と疑問に思うことはありませんか?有名な地名なのに、その由来はわからない。私にとって、JR総武本線の浅草橋駅や水道橋駅。浅草から離れているのに浅草橋?水道の橋とは?ずっと不思議だった謎の答えを探すために、浅草橋駅で下車してサイクリングをし探索をしてみました。
今回は、JR総武本線浅草橋駅からサイクリングスタート。ここまでは電車を利用してきました。
公共交通機関を利用して自転車を運ぶことを輪行(りんこう)といいます。サイクリングや旅行の行程の一部を自走せずに鉄道、船、飛行機、バスなどを利用するもので、遠くへ移動したり、時間を短縮することができます。 |
浅草橋駅は4階に相当する高さにホームがありますが、DAHON Boardwalk D7は20インチサイズで車重は12.5kgですが折り畳むと持ちやすいので、スムーズに降り立つことができました。サイクリングを始める前にエネルギー補充をします。
浅草橋と神田川
浅草橋。なぜ「浅草」橋なのでしょうか?浅草寺雷門で有名な浅草はここから2km以上も離れています。浅草エリアにないのに浅草橋という名前に以前から違和感を覚えていたのです。
橋の北詰にその答えを発見。江戸時代にこの場所は奥州街道が通っていて、ここに見附(見張りをする所)がありました。当時は、この見附より北側の街道沿いが広く浅草と呼ばれていたようです。よって、ここにあった見附は浅草見附と呼ばれ、かつ、そこにある橋が浅草見附橋、または浅草御門橋と呼ばれていました。いつしか、省略されて、浅草橋になったとのことでした。まさに地名に歴史ありですね。
現地に行くことで、謎が簡単に溶けてしまいました。駅から離れたところに行くのは大変です。しかし、折り畳み自転車があれば、輪行で目的地近くまで訪れることができるので、それも容易です。
橋というからには下には川が流れています。江戸城外濠としても機能していた神田川。そこで、神田川に沿って、さらに自転車散策を続けてみることにしました。まずは、河口にかかる柳橋へ移動します。浅草橋は神田川河口から2番目にかかる橋で、最初の柳橋までは、自転車ならば目と鼻の先。柳橋を境にして、神田川は隅田川と合流します。柳橋から隅田川にかかる両国橋を見ることもできますが、ここでUターンをして、神田川上流方向へ向かっていきました。
柳橋から撮影。奥に見える橋が隅田川にかかる両国橋です。 |
神田川河口には屋形船が並びます。この浅草橋から柳橋の区間は「ここ東京ですよね?」と思わず叫びたくなるエリアです。東京のビル群の中にたくさんの屋形船が並んでいて、都会のど真ん中にいることを忘れてしまいそうです。 |
神田川下流は静かな流れで癒されます。 |
万世橋には以前、駅舎がありました。写真の左側が駅舎跡です。現代では、改築してショッピングモールとなっています。 |
仙台堀と水道橋
このまま神田川沿いに沿って進んでいくと、秋葉原→お茶の水→水道橋と続きます。この地の最大の疑問は秋葉原と水道橋は低地にあるのに、お茶の水を頂点にして山になっているということ。
なぜでしょうか。
実は、江戸時代までは、神田川と隅田川はつながっていませんでした。現在の飯田橋あたりから運河をつくり、神田川を隅田川へと人工的に繋いだのです。その工事の過程で、現代のお茶の水の地にあった大きな台地を南北(北側を本郷台地、南側を駿河台)に分け、川を延伸しました。この工事を請け負ったのが伊達政宗で有名な仙台藩。よって、この開削地帯を仙台堀と呼びます。
見下ろせば、深い谷。重機などなかった江戸時代に掘るのがいかにたいへんだったか、思いを馳せてしまいます。
写真の右側が駿河台、左側が本郷台地。地下鉄丸の内線が仙台堀のところで顔を出します。山を削らなければ、ここは地中だったはずです。 |
ところで、江戸時代よりも以前、ここより南方の日比谷方面は、入江だった場所です。よって、埋立て地なので、地下水は塩分を含んでしまいます。日比谷方面に飲料水を供給するには水道が必要でした。そこで、造設されたのが神田上水です。神田上水は神田川中流から川の北側に作られた水路です。これにより、江戸市中(神田川の南側)へと飲料水が供給されていたのです。この水路が神田川を南北に横切る場所、そこが現在の水道橋駅付近です。神田上水=水道ですから、文字通り、水道の橋。これで、水道橋という名前も納得ですね。
水道橋にあった神田上水の掛樋(水道橋)の記念碑、駐車場があるわけではありませんので、車で訪れるのは大変です。奥に見えるのは総武線。手前から、掛樋が奥に向かってあったのかと想像を膨らませます。 |
水道橋から仙台堀を眺めると、どれだけ掘ったのかがよくわかります。 |
神田上水の跡をたどる
神田上水は20世紀の最初まで利用されていましたが、その後は蓋をされて、暗渠となりました。現代では流れていません。しかし、もしかしたら、なにか遺構が残っているかもしれないと考え、水道橋駅から北上して神田上水の跡をゆっくりと辿ります。
神田上水の流れを教えてくれる案内板がありました。 |
壁にある看板に注目。神田上水沿いの地名には、水道端や水道という地名があります。いかにも神田上水跡と感じさせます。 |
地図で確認しながら、神田上水跡をサイクリング。しばらく進むと、文京総合福祉センターのところに、神田上水旧白堀跡がありました。この施設を建設するときに、神田上水の跡が見つかったとのこと!看板となっていた説明文を読むと、文京総合福祉センターを作るときに遺構が見つかったから、現在もそのまま保存しているとのこと。ところが、周りを走り回っても、遺構らしいものは全く見つかりません。ぐるぐると回ること10分、遺構がなかなか見つからず、意気消沈してうつむき加減に説明文のあった場所に戻りました。すると…
ガラス張りなっている地面。その下に遺構が残っていました。訪れた日は快晴だったので、太陽の光がガラスに反射して中がよく見えません。しかし、探し回った後だったので、光り輝いているように見えました。
江戸川橋をぬけて
神田上水跡を抜けると、江戸川橋のところで、神田川と合流します。なぜ江戸川?現代では江戸川といえば、千葉県と東京都(あるいは埼玉県)の境界を流れる川です。ここにも歴史の流れがありました。現代では、神田川と呼ばれる1本の長い川ですが、神田川の中流域は江戸時代には江戸川と呼ばれていました。その名残があって、この近辺には江戸川橋という地名が残されています。
さらに、この辺りの地名は関口。神田上水のために水が堰き止められていた場所だったことにその名前は由来しています。この関口界隈は、芭蕉庵、水神社、旧肥後細川庭園などの、昔ながらの建物が軒を連ねています。ソメイヨシノが咲く景勝地でもあるので、自転車通行禁止区域がありますので、押し進みます。
俳人として有名な松尾芭蕉。なんと、神田上水の改修工事に携わったそうです。この界隈と芭蕉の関連を後世に伝える建物です。 |
急坂の上にある水神社。息を切らせてお参りしました。 |
細川家の下屋敷がそのまま庭園となった旧肥後細川庭園。傾斜が上手にデザインされていて情緒を感じます。カフェも併設されているので、ここで休息してもよかったかも。 |
大滝橋からの眺め、桜の季節はさぞ美しそうです。 |
勾配22%ののぞき坂
神田川の水源はここから15kmほど進んだ井の頭公園になります。このまま川沿いを散策してもよいのですが、川散策はここまでにして、ちょっと道をそれました。この近くにはアニメ「天気の子」に登場する急坂があるとの情報が!坂の名前は『のぞき坂』。名前を聞くだけで、よほどの坂なのだろうと想像がつきます。
坂下には勾配を表す看板がありました。22%。たまたま前を走っていた電動アシスト自転車の女性もバランスを崩して足をついていました。いわゆる聖地巡礼で、坂見学に訪れて、記念撮影をして引き返している人もいます。地元でも有名なのか、この急坂をみんなが避けているようでした。 |
ここまで来たら、後戻りはできません。DAHON Boardwalk D7には7段ギアが搭載されています。スピードが落ちても、バランスさえ崩さなければ登れるはずです。「DAHON Boardwalk D7の性能をみせてやる!」と心の中で叫び、一気に登りました。登っている時間は1分くらい。感覚的には5分くらい。無事に頂上へ。坂上で記念撮影をしようと振り返ると、『のぞき坂』という名前の意味がよくわかりました。名は体を表すという言葉通りです。
坂道を登ったところで、結構な疲労感。今日のサイクリングもブラブラと寄り道しながらだったので15kmを超え、出発地点の浅草橋まで戻る気力はありません。しかし、やめたくなったら止められるのが折り畳み自転車の良いところ。近くのJR池袋駅まで走って、輪行し家路に着くことにしました。そこで、本日の自転車散歩終了とします。
途中、護国寺でも記念撮影。 |
池袋駅でゴールとします。このように臨機応変に行動できるのが折り畳み自転車での輪行の良いところです。 |
今回巡ったポイントと走行ルートです。起点と終点を異なるところにできるのも、輪行のメリットの一つです。
今回の「ローカル駅からはじめる自転車散歩」は如何でしたか?日本には全国くまなく駅があり、輪行すれば「楽に長距離を」「比較的安価に」移動でき、天候や体調の急な変化や機材トラブルにも対応できます。今回利用したBoardwalk D7はエントリーモデルの一台ですが、7速ギアが搭載されているので坂道だらけの東京都内でもしっかりと走ることができました。重いギアを選択すれば、颯爽とスピードを出して走ることもできます。皆さんもDAHONの折り畳み自転車(フォールディングバイク)を持参して、自転車散歩という休日の愉しみはいかがでしょうか。DAHONでは様々な折り畳み自転車をラインナップしていますが、走行機能と折りたたみ機能のバランスを考えながら直感的な好みも含め、自分にあった製品を選んでください。
DAHONでは今後、様々な地方のローカルな鉄道駅を起点にした自転車散歩(ポタリング)記事を連載いたします。更新時にはFacebookやTwitterでお知らせしますので、ぜひフォローをお願いします。また近々「ローカル駅からはじめる自転車散歩」専用のInstagramアカウントもスタートしましたので、こちらもぜひチェックをお願いします。
*使用車体
DAHON / Boardwalk D7(Color:マットブルーグレー)2021年モデル
*この記事で紹介している情報は、2021年3月時点の取材に基づいています。
*歩行者のいるところや細い路地などは押し歩きや迂回するなど、マナー優先でサイクリングを楽しみましょう。